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だし割り

居酒屋の裏メニュー──そのそこはかとなく背徳感漂う語感は酒飲みの心をくすぐるものがあります。

初来店らしい客がメニューをめくっているのを横目で見ながら「そこのお品書きには載っていないけどこの店には秘密の料理があるんだぜ」なんて心の中で呟きながらほくそ笑むネクラな優越感。

なじみ客だけがその秘密を共有しているという結社めいた連帯感w

裏メニューという言葉には遠い少年の日に友達と作った秘密基地のような響きがあります。

その中二病的な言葉が持つ灯(ともしび)はカウンターで熱燗をすするおっさんになっても色あせることなく心の奥に灯っているのでしょう。

改めて言うほどでもないかもしれませんが裏メニューというのは飲食店の非公式なメニュー。

知る人ぞ知る料理や飲み物を指します。

とはいえ、一口に裏メニューと言ってもその発祥にはいろいろなパターンがあるようです。

  • パターン1:材料が希少で多くの客に提供できないので頼まれた時だけこっそり出す料理。

「他のお客さんには内緒だよ」なんて言われたりします。

  • パターン2:実験料理やまかないを食べているところを客が見つけて「俺も欲しい」とねだられたことから店で出す料理に昇格したもの。

表メニューにしても良いのだけどお品書きを書き直すのが面倒で裏メニューのままということも往々にしてあります。

  • パターン3:客が「こんな感じの料理が食べたい」とメニューにない料理をねだって料理達者な店主が臨機応変に作ってみせたことで生まれたわがまま裏メニュー。
  • パターン4:創業当初は表メニューだったのだけどあまり注文されないのでお品書きから外され古参の客が思い出したように頼んだ時だけ出て来る降格型裏メニュー。

中には「あの店の裏メニューにはこんなのがあるんだぜ」なんて囁かれるだけで誰もその料理を見たことがない都市伝説めいた裏メニューもあるとかないとか。

それが創業○周年にお披露目されて「本当にあったのか」なんてことになったら胸熱でしょうね。

だし割りは日本酒をおでんのつゆで割ったホットカクテルです。

その発祥は東京都北区赤羽にある「丸健水産」。

元々はおでん種専門店だったのですが店先でおでんを出すようになり2代目に代替わりしてからはお酒も出すようになったとか。

冬の寒い日、寒そうにしている客を見た店主が少し日本酒の残っているカップに熱々のおでんつゆを注いでくれるサービスを一杯50円で始めたことから生まれたのだとか。

今からまた寒い道を歩いて帰る客にとってちょっと度数低めの和製ホットカクテルは〆の一杯にもってこいだったのかも。

わざわざ酒を残した客がカップをカウンターに持って行っておでんつゆを注いでもらうというスタイルが口コミで広まって裏メニュー化したとか。

さしずめ「パターン5:客の様子を観察していた店主がこうすれば客が喜ぶんじゃないかなと考案した料理」と言ったところでしょうか。

今では丸健水産のメニューには「最初からダシ割り」というのもあって注文すると日本酒をおでんつゆで割ったカップが出て来るそうなのでメニューは裏から表にひっくり返っちゃった観があるそうな。

それでもその醤油辛いホットカクテルをすすれば遠い日に過ごした夕日に染まる秘密基地のような懐かしい味がしそうです。

【材料】(1人前) 

調理時間:2分-

  • 日本酒:50g(50ml)
  • おでんのつゆ:100~150g(100~150ml 味を見ながらお好みで加減してください)
  • (お好みで)七味唐辛子:適宜

【作り方】

  1. 日本酒を180mlくらいの要領のぐい飲みに注ぎ電子レンジの500ワットで30秒チンします。待っている間におでんのつゆを温めておきます。
  2. 1.のぐい飲みにおでんのつゆを注げばできあがり。お好みで七味唐辛子を振って戴きます。

【一口メモ】

  • 醤油の匂いが立つので日本酒の匂いが苦手という方でもけっこうイケそうな気がします。アルコール度数は1/3くらいに希釈されるのでその分飲みやすいんじゃないかな。何より体がポカポカ温まって寒い冬の夜には嬉しいホットカクテルです。
  • 日本酒とおでんつゆの比率は1:2~3と言われていますが厳格な決まりがあるわけではないので味を見ながらお好みの量で割ってください。ちなみに本家、丸健水産のだし割りは180mlのカップ酒に50mlの日本酒を残しておでんつゆを注ぐそうなのでおよそ1:2.6の比率ですね。
  • 日本酒の温度は冷酒、常温、燗酒どれでもありです。僕的には軽く温めた日本酒に熱々のつゆを注ぐと丁度良いと感じました。
  • わざわざおでんのつゆをだし割りのために作るほどのものではありませんがスーパーやコンビニで買ってきたおでんつゆの残りを使えば〆のお楽しみがひとつ増えますよ。
  • 市販のおでんのつゆも十分美味しいですが専門店の年季を積んだつゆを使ったらいろいろなおでん種の風味が混然一体となって格別でしょうね。元々は赤羽のおでん屋さんでカップ酒を飲んでいたお客が少しだけお酒を残しておいておでんのつゆを注いでもらったのが発祥だとか。一度飲んでみたいな。

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