『ピカソの30秒』と言われる小話があります。
ピカソが市場を歩いていると一人の婦人が寄って来て、
「あなたの大ファンなんです。何か絵を描いてくれませんか」
と頼みました。
ピカソは快く受けて30秒ほどでさらさらッと1枚の絵を描きました。
「この絵はいくらなら私に譲ってくれますか?」と婦人が訊ねると「100万ドルなら譲りましょう」とピカソは答えました。
たった30秒で描いた絵にその値段は法外だと婦人は抗議しました。
するとピカソはこう答えたのです。
「僕は30秒でこの絵を描いたのではありません。30年研鑽を重ねた上でこの絵を描いたのです。ですからこの絵は30年と30秒かけて描いたものです」
婦人は返す言葉を失いました。
元ネタはホイッスラーというアメリカの画家のエピソードらしいですが、よくできた話です。
ベーブルースやハンク・アーロンだってバットを持って生まれてきたわけではありません。
ソクラテスやプラトンだって赤ん坊の頃から小理屈をこね回せたわけではありません。
何年も何十年も研鑽して歴史に名を残す名選手や哲人になったのです。
子供の頃はできなかったことができるようになった──なんて経験を誰しも持っているものです。
例えば、僕は大学生になるまで自転車に乗れませんでした。
というか、実家のある神戸市は坂ばかりの街で自転車で移動するのに不向きな土地柄だったのです。
なので、日常生活の中で必要性を感じることもなく、乗りたいとも思わなかったんですね。
ところが僕が入学することになったのは岡山大学。
岡山市はやたら広くてどこへ行くにも自転車がないと暮らせないと聞いたのです。
もちろん、猛特訓しましたよ。
大学の合格通知をもらってから毎日。
僕は運動音痴なので乗れるようになるまで2週間くらいかかったかな(笑)
今ではまるで生まれた時から自転車に乗れていたかのような顔で街を走っていますが、誰かにそんなことを言われたら
「とんでもない、あの猛特訓の2週間があったから、自転車に乗れているのです」
と答えるでしょうね。
過日、夕飯にこんな料理を作りました。
ありがちな中華総菜ですが、驚くほど美味しかったのです。
手際よく作れたので調理時間は10分程度。
それでも思うのです。
10年前の僕ならこんなに美味しく作れなかったし、調理時間ももっと長かったはずだと。
なので誰かに「へえ、10分くらいで作れる簡単な料理なんだね」なんて言われたらこう言い返さずにはいられないでしょう。
「いや、この料理は10年と10分かけて作ったんだ」と。
【材料】(1人分)
-調理時間:12分-
- 豚バラスライス:100g
- 茄子:1本
- ピーマン:1個
- 炒りごま:小さじ1/2
- サラダ油(茄子揚げ焼き用):24g(大さじ2)
- ごま油(豚肉炒め用):8g(小さじ2)
[調味料パート]
- 味噌:14g(小さじ2強)
- 酒:7.5g(大さじ1/2)
- 味醂:12g(小さじ2)
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 砂糖:4.5g(大さじ1/2)
- 鶏がらスープの素:小さじ1/2
- 豆板醤:3g(小さじ1/2)
- おろしにんにく:ひとかけ分
【作り方】
- 茄子はがくを取って、横半分に切ってさらに8つ割りにします。豚肉は食べやすい大きさに切ります。ピーマンはヘタと種を取って、乱切りにします。[調味料パート]は合わせてよく混ぜておきます。
- フライパンにサラダ油を張って強火で1分温めます。これに茄子を加えて中火で1分半炒めます。茄子は一旦、皿に取ります。 ※茄子は油をよく吸う野菜ですので1分ほどで油はほぼなくなっています。ただ、茄子に火を通すためそこで手を止めずにあと30秒ほど炒めてください。
- 2.のフライパンを洗わずそのままごま油を入れて中火にかけ豚肉を加えて軽く焼き色がつくまでしっかり炒めます。これにピーマンを加えて30秒炒めます。
- 3.に茄子を戻して[調味料パート]を加え水気がほぼなくなるまで炒めます。これを皿に盛って炒りごまを振ればできあがり。
【一口メモ】
- ありがちな中華総菜だけど、美味しい。たぶん、5年前の僕が作ったら、3年前の僕が作ったら、1年前の僕が作っても……こんなに上手に作れなかったと思うと自画自賛してます(笑)
- ピーマンのほろりとした苦みが良いアクセントになっていますね。作る前は(茄子と豚肉だけで)ピーマンは要らないじゃんと思っていたのですが、前言撤回。これはピーマン必須です。
- フライパン1つで完結するいわゆるワンパン料理ですね。洗い物が少なくて済むので後片付けがとっても楽です。
- 揚げ茄子にすることも考えたのですがこの手順にすると、茄子に適度な歯ごたえが残っていて食べ応えが増すのでおすすめです。