坂田靖子さんは昭和28年生まれの漫画家です。
彼女の作品は僕もけっこう好きでよく読んだのですが、なかでも「村野」という短編が大好きでした。
時代は明治──主人公の家に、彼の学友たちが酒や料理を持ってお年賀にやってくるという、日常の一コマを切り取った小編。

タイトルの「村野」は、主人公の悪友の名前です。
彼らのコミカルで軽妙な会話が、なんとも心地良かったな。
そんな友人たちの一人が、牛肉を塊で持ってきます。
「よし、牛鍋にしよう」
と盛り上がるのですが、薄く切っていくと、とんでもないボリュームになることが判明。

ざわつく場にとどめを刺したのは、家にある葱は1本だけという事実!
「お前は肉を食ってろ、葱は俺んだ」
──なんて、時ならぬ“葱争奪牛鍋パーティ”が勃発するくだりには、腹を抱えて笑いました。

コミカルに描かれていますが、実際のところ、明治の若者にとって洋食は憧れであり、牛鍋はごちそうだったということなんでしょうね。
流行をけん引していくのは若者たち──というのは、いつの時代も変わらないと思いますが、そんな彼らが思い描く「ごちそう」は、時代とともに変遷してきたようです。
江戸時代、特に後半の18~19世紀。
若者が考えるごちそうは、普段の一汁一菜(米、味噌汁、漬物)とは異なる外食や新鮮な魚介類。
特に寿司、天婦羅、鰻の蒲焼、蕎麦などは大人気でした。

明治から大正になると、肉食解禁による西洋風の新しい味、いわば文明開化の象徴となる料理がごちそうになります。
「村野」に出てくる牛鍋や、カレー、とんかつ、コロッケ──まさに「新しいは正義」な時代だったみたいです。

これが昭和の高度成長期になると、特別な日に家族で出かけて食べる外食、あるいは家で食べる肉料理などがごちそうになりました。
かつては店でしか食べられなかった料理が、家庭の夕飯に並ぶようになった時代ですね。
ハンバーグ、エビフライ、ステーキなどが人気で、それらをお手頃価格で提供するファミリーレストランが象徴的でした。

そして現在。
高級料理へのこだわりは、やや低下したように見えます。
代わりに、豪華さよりも「美味しい」「楽しい」「SNS映えする」といった体験そのものが、ごちそうになったのではないでしょうか。
その体験をSNSを通じて友達とシェアする、という行為もまた象徴的です。
回転ずしや唐揚げ、エビフライなどの揚げ物は相変わらず人気ですが、背伸びしない手軽な贅沢
──1500円くらいの少し良いランチや、家で少し高いコンビニスイーツを食べることも、「ごちそう」として認知されているようです。

そんな「ごちそう」の歴史を振り返ってみると、今日のレシピである「ぶりテキ」は、ステーキである以上、昭和のノスタルジックなごちそうにも見えます。
けれど、「ぶりを使って照り焼き……じゃなくて、ステーキを焼いちゃいました」というコンセプトは、体験重視型の今風のごちそうと言える気がします。
牛肉よりずっとリーズナブルな材料で作れるあたりも、背伸びしない手軽な贅沢といえるんじゃないかな。
【材料】(1人分)
-調理時間:18分-
- ぶり(切り身):1切れ(約100g)
- まいたけ又はしめじ:1/4株
- にんにく:ひとかけ
- 塩:少々
- 薄力粉:適宜
- オリーブオイル:6g(大さじ1/2)
- 粗挽きブラックペッパー:少々
[調味料パート]
- 酒:10g(小さじ2)
- 焼肉のタレ:大さじ1
【作り方】
- ぶりに塩を振って10分置きます。茸は小房に分けます。にんにくはスライスします。
- 1.と並行してフライパンにオリーブオイルを入れて弱火にかけます。これに、にんにくを入れて色づき始めたら火を止めて小皿に取っておきます。
- ぶりについた水分をキッチンペーパーでしっかりふき取ってから薄力粉をまぶします。2.のフライパンを洗わずに中火にかけぶりと茸を入れて1分半焼きます。ぶりと茸をひっくり返してさらに1分焼きます。
- 3.の鍋肌から[調味料パート]を流しいれぶりに絡めながら水気が半分以下になってとろみが付くまで焼きます。 ※ぶりに直接[調味料パート]をかけるのでなく、鍋肌から流し込むことで適度に調味料を焦がして風味を立たせることができます。
- ぶりと茸を皿に盛りつけ、フライパンに残ったタレをかけます。ぶりの上ににんにくをトッピングし、粗挽きブラックペッパーを振ればできあがり。
【一口メモ】
- ぶりやマグロは、獣肉的な扱いもできるので、ビフテキやとんてき同様、「テキ」にできるのではないかと思って試作してみました。焼肉のタレにお任せの簡単料理ですが、めちゃくちゃ美味しかったです。
- 同じ要領で、とんかつ用の肉を使っても美味しくできます。また、マグロのアラ(めちゃ安いです)が手に入ったら、半日ほどボウルで水に浸けて血抜きしてから焼くと、格安ステーキになりますよ。
- 付け合わせは茸以外にも、人参、玉ねぎ、もやしなどがおすすめ。変わり種としては、茹でたさつまいもを焼肉のタレで焼くのもアリです。甘めのテイストが、主役のぶりテキをしっかり引き立ててくれます。

