肉料理は昭和の昔にはぜいたくなおかずだったかもしれないけれどイマドキはすっかり普段着のおかずって感じです。
肉料理が夕飯のおかずにあるとなんかテンション上がりますよね。そのお肉がうっとりするくらい柔らかければ更にテンションは舞い上がります。
もちろん高級なお肉を買ってくれば簡単な話ですがなかなか財布が許してくれません。
そこで、今日は安くて硬いお肉でも、柔らかく仕上げるテクニックについて解説したいと思います。
目次
お肉が硬くなる理由を知る
お肉を柔らかくするテクニックを紹介する前にまずはお肉が硬くなる理由を知っておきましょう。
お肉が硬くなる理由は2つあります。それぞれの理由は特性が全く違うものなので取るべき対策も違ってきます。
[理由1] 筋組織がしっかりしている部位は硬い
俗に筋張っているなどと言いますが筋肉の塊のような部位のお肉はそもそも硬いです。
たとえば、牛すじを焼き肉にして食べたらどうなるでしょう? 硬くて噛み切れませんよね。
こういった部位を柔らかくする対策は筋組織を壊してしまうのが効果的です。ポピュラーな方法としては
- 筋組織をもろくするような下ごしらえをする。
- 長時間煮込む
と言った手法があります。とろとろになるまで煮込まれた牛すじの煮込みなんてうっとりするくらい美味しいですよね。
[理由2] タンパク質が熱変性して硬くなる
タンパク質は熱を加えると硬くなります。この現象を熱変性と言います。
ゆで卵ができるのもお好み焼きが焼けるのも卵や小麦粉に含まれるタンパク質の熱変性を利用しているのです。
熱変性は特定の温度を超えると起き始めます。なのでその温度のライン内で調理をすればお肉のタンパク質は硬くならず。柔らかい肉料理に仕上がります。
お肉を柔らかく仕上げるテク
物理的に筋組織を壊す
まずは基本的な下ごしらえですがステーキ用の牛肉やトンカツ用の豚肉は筋切りをします。
筋は赤身と脂肪の境界にあるのでここを縦断するように切り込みを入れればOKです。
これをしておけば筋のところで硬くなって肉が丸まることもなくなります。
あと、肉の筋組織を物理的に破壊するのでポピュラーな方法は肉を叩くことですね。
但し、肉を叩けば確かに柔らかくなりますが相応の代償を払うことにもなります。
叩くと肉の表面はボロボロになります。この状態で焼くと肉の旨味がどんどん流れ出てしまって旨味の枯れたステーキになります。
柔らかいけど旨味がない。これでは本末転倒。なので僕は多少硬くても肉は叩かない派です。
酵素の力を借りる
ある種の食品にはプロテアーゼと呼ばれる酵素が含まれています。この酵素には動物性タンパク質を分解する作用があるためペースト状にするなどしてお肉にまぶせば硬い筋肉繊維を壊してくれます。
プロテアーゼを含む食品はいろいろありますがたとえば生パイナップなどもこの酵素を持っています。
生パイナップルを食べた時に口の中がピリピリするのもこの酵素の働きで口内を構成するタンパク質が削られているからなのです(ちょっと怖い^^;)。
なので酢豚の下ごしらえで生肉に生パイナップルを合わせると肉を柔らかくする効果があります。
但し、プロテアーゼは熱に弱いので炒める段階でパイナップルを加えても肉を柔らかくする効果は薄いです。
同じ理由で缶詰のパイナップルの場合、既に火が通っていますのでこれを使っても肉を柔らかくする効果は全く期待できません。
ではなぜ酢豚にパイナップルを入れるようになったのか? その理由は肉を柔らかくすることとは全然別だそうです。
清の時代、上海で欧米人相手の飲食店が料理に高級感を出すために当時は珍しく高級食材だったパイナップルを入れたという非常に下世話な理由なんですって^^;
プロテアーゼを含む食品とお肉の下ごしらえ
プロテアーゼを含む食品でめぼしいところをまとめておきますね。それを使った肉の下ごしらえの仕方も書いていますので参考にして下さい。
食品の種類 | 食品名 | 下ごしらえの方法 |
茸 | 舞茸、エリンギなど | ミキサーにかけてペースト状にしたものを肉にまぶす |
野菜 | 大根、キャベツ、玉ねぎなど | すりおろしてまぶす |
果物 | パイナップル、青パパイヤ、キウィフルーツ、りんご、いちじくなど | すりおろしてまぶす |
発酵食品 | 麹、味噌、納豆、ヨーグルトなど | 漬け込む |
調味料 | はちみつ | 表面に塗る |
中華の技法を使う
中華料理の底力というか奥深さを感じさせられる下ごしらえの技法に「漿(チャン)」というものがあります。
フレンチやイタリアンのシェフでもこの漿のオールマイティーさを絶賛する人は多いようで、先日ご紹介した「シャキシャキの野菜炒めができる中華の奥義」と並んで中華料理では非常に大切な下ごしらえの技法です。
中華料理を食べに行くとお肉が凄くやわらかかったり、お魚がやわらかい上に甘みがあって感動することがありますよね。
あれは、この漿(チャン)という下拵えによるものだそうです。
漿(チャン)の効果
漿(チャン)は肉の表面をコーティングして肉に対する熱のあたりを柔らかくし、旨味を逃さないための下ごしらえです。天ぷらやトンカツに衣を付けるのに少し似ていますがもう少し手が込んでいます。
漿(チャン)がもたらしてくれる効果にはこんなものが挙げられます。
- 肉が含む水分が逃げづらくなり硬くなりづらくします。
- 旨味を内側にとじ込めます。
- 水分が抜けてパサパサせず、ふっくらと仕上がり、調味料の味が入りやすくなります。
漿(チャン)のやり方
漿(チャン)のやり方は大雑把に言うと、
魚介なら、油・酒・塩・胡椒・片栗・卵白(+ダシ)で下拵えを、
肉なら、油・酒・塩・胡椒・片栗・卵黄または全卵(+ダシ)で下拵えをします。
では、実際に漿を使ったレシピを紹介しつつ下ごしらえの仕方を解説しましょう。
蚝油牛肉(ハオ・ユー・ニュー・ロウ)のレシピ
ハオ・ユー・ニュー・ロウとは、「牛肉のオイスターソース炒め」のことです。
中華では単に肉と書かれていた場合、豚肉を指しますので、牛肉を使った料理は敢えて、牛肉(ニュー・ロウ)と書く必要があります。
青椒肉絲(チンジャオロース)も本来は豚肉のお料理で、牛肉を使う場合は「青椒牛肉絲(チンジャオニュウロース)」と書かなきゃいけないそうです。
【材料】(2人分)
-調理時間:20分-
[具材パート]
- 牛もも肉(安いやつでOK):120g
- 人参:1/4本
- ブロッコリー:半房
- しめじ:半株
[調味料パート]
- オイスターソース:12g(小匙2)
- 濃口醤油:12g(小匙2)
- 紹興酒:8g(大匙1/2):なければ日本酒
- 鶏ガラスープ:水30g+鶏がらスープの素少々
- 砂糖:6g(小匙2)
- ブラックペッパー:少々
- 水溶き片栗粉:3g(小匙1)+水少々
[下味パート]
- 塩:1g(小匙1/4)
- ブラックペッパー:少々
- 紹興酒:10g(小匙2):なければ日本酒
- 卵黄:1個分
- 片栗粉:12g(大匙1+小匙1)
- サラダ油:12g(大匙1)
[仕上げパート]
- ごま油:2g(小匙1/2)真鰯:5~6尾
【作り方】
- 牛肉は1cm幅くらいの細切りにします。人参は5mm厚の薄切りにします。ブロッコリーとしめじは小株に分けます。[調味料パート]は合わせておきます。
- 牛肉を漿(チャン)します。
小鉢に[下味パート]の塩、ブラックペッパー、紹興酒を入れ牛肉を加えて水気がなくなるまでよく揉みます。これに卵黄を加えて牛肉に吸わせます。よく吸わせたら、片栗粉を加えて粉っぽさがなくなるまでよく和えます。最後にサラダ油を加えてよく和えます。これをラップに包んで冷蔵庫に入れておきます。
- 鍋にお湯を沸騰させて、人参とブロッコリーを3~4分茹でます。牛肉を冷蔵庫から出します。
- 中華鍋に油をたっぷり入れて中火にかけ、30秒ほど待ってから牛肉をほぐしながら加えます。牛肉に7分通り火が通ったら、よく油を切って引き揚げます。 ※100度を超えたあたりの低温で火を通すのがポイントです。
- 油を更に過熱し、中温(160度くらい)になったら、人参、ブロッコリーを入れてさっと混ぜ、さらにしめじを入れてもうひと混ぜしてから、すぐに油を切って引き揚げてしまいます。
- 中華鍋の油をストッカーに戻し、良く洗ってから(そのまま使っちゃうとギトギトの料理になっちゃいますヨ)、牛肉と野菜を戻してさっと炒め、[調味料パート]を鍋肌から流し入れ、具材とよく絡ませます。最後に[仕上げパート]を回しがけ、さっと混ぜればできあがり。
このレシピの工程2.の赤ラインマーカーを付けたところが漿(チャン)の手順です。
ちなみに工程4.が肉の油通し、工程5.が野菜の油通しの手順です。
油通しの詳細については「シャキシャキの野菜炒めができる中華の奥義」を合わせてお読み下さい。
肉に衣を付ける
タンパク質の熱変性によって肉が硬くなるのを抑える手法について解説しますね。
熱によって肉が硬くなるのを防ぐ手法の中には実は意識していないだけで僕らが普段から接しているものもあります。
ポピュラーなのは肉に衣を付けること。
たとえばトンカツの衣は肉の旨味、水分を逃さなくし、高温の油が肉に直接当たるのを防いで火の入り方を柔らかくする効果があります。
試しに衣なしでトンカツ用のお肉を揚げれば(僕はヤですけど^^;)衣のありがたみがよくわかりますよ。
低温で調理する
タンパク質の熱変性によって肉が硬くなるのを抑える手法の2つ目は熱変性しない低い温度でじっくり火を通すこと。
肉に加える熱が60度を超えると熱変性が始まります。そして高温になるほどそれは顕著になります。
であれば60度前後で時間をかけて肉に火を通せば肉は硬くならないというのがカラクリです。
とはいえ、コンロでこの温度をキープするのは至難の業、そのための道具が要ります。
一番お手頃な道具は炊飯器ですね。
炊飯器の保温モードはメジャーなメーカーであれば約70度に設定されています。
肉を柔らかいまま火入れする理想的な温度は63~65度くらいなのでちょっと高めですがそれでも肉を硬くしない効果は十分に期待できます。
ローストビーフ、煮豚、鶏むね肉のハムなど炊飯器で作れる肉料理はたくさんありますが基本的な手順は同じです。具体的にはこんな感じ。
- 肉に塩、胡椒、スパイスなどの下味を付けジップロックに封入する。タレ漬けする場合はタレもジップロックに入れます。
- 炊飯器に肉がしっかり浸かるくらいの熱湯を入れ炊飯器の蓋を開けたまま10分ほど放置して冷ます。
- 1.のジップロックを入れて保温モードのボタンを押す。あとはほったらかしにしておいてOK。
火入れの時間は鶏むね肉のハムなら1時間半くらい。ローストビーフ、煮豚なら3~4時間が目安ですが、肉の厚みなどによって変わってきますので最終的には引き揚げた後、カットして断面を見て判断してください。
ステーキの湯煎焼き
これの応用でステーキを焼く方法もあります。
ステーキを焼く際の課題は肉の芯まで火を通そうとすると焼き時間が長くなり肉が硬くなることです。
このジレンマは調理手順を変えることで解決します。
- ステーキ肉をジップロックに封入する。
- フライパンに1.のジップロックを置きひたひたの水を加えて弱火にかける。
- 十分熱いけど指がまだ突っ込めるくらいの温度(45度くらい)まで温まったら火を止めてジップロックをひっくり返して蓋をし5分放置。
- ジップロックから出した肉に塩をまぶしてフライパンで片面30秒くらいずつ焼いて焼色を付ければできあがり。
つまり、低温で肉の芯まで火を通す作業を先にやっておき、後から表面を焼けば良いわけです。
低温調理ができる調理器具
低温調理ができる専門的な調理器具で僕がオススメするのはヨーグルトメーカーです。
25度から70度くらいの温度を1度刻みで設定できて火入れ時間を設定するタイマーも付いています。
低温調理だけではなく発酵食品なんかも作れるスグレモノなので持っていると料理の幅がぐっと広がります。
ちなみに僕が持っているのは↓ビタントニオというメーカーのやつで結構重宝しています。
これで作った牛すじの煮込み(3日くらいかけて作りました)の柔らかさは感動的でしたよ。
輻射熱で焼く
実はオーブンでステーキを焼くのも効果的です。
オーブンは輻射熱で火入れする方式の調理器具です。
輻射熱というのはたとえば日向にいると太陽の熱で体がポカポカ温まる熱の伝わり方で火に手をかざすよりずっとやわらかい温まり方ですよね。
なのでフライパンで直火を使って焼くよりもオーブンを使って網焼きした方が肉は柔らかく仕上がります。
まとめ ─お肉を柔らかくする際の注意─
お肉が硬くなる理由は2つあります。
- 筋組織がしっかりしている部位は硬い
- タンパク質が熱変性して硬くなる
でしたね。今日、ご紹介した以外でもネットを検索すれば様々な方法が紹介されたサイトを見つけることができます。
どれも記事を読む限りは効果絶大に思えるのでいろいろ試してみたくなると思います。
その際にひとつ注意して頂きたいことがあります。それは、
肉がやわらかいということと肉が旨いということは別の話だということ。
肉叩きのところで書きましたがいくら肉がやわらかくなっても肉の旨味が流れ出してしまうような技法を使っては本末転倒です。
新しい技法にチャレンジする際にはそのやり方をして肉の旨味を失くしてしまわないかちょっと立ち止まって考えてみて下さい。
それでは良いお肉ライフを。