昭和40年代に小学生の男の子を主人公にしたドラマが一世を風靡しました。
主人公の名前を取って「ケンちゃんシリーズ」と銘打たれたそのドラマは"現代っ子"と呼ばれた子供たちの心情を余すところなく具現化して、同年代だった僕らもその子供を育てている親の世代の心も鷲掴み。
高視聴率を叩きだしたものです。
主人公の実家の家業がまたあざとくて、「おもちゃ屋」だの「ケーキ屋」だのそれを視る子供たちが「僕もこの家に生まれたかった」なんて思わずにいられないものばかりでした。
かくいう僕も「ケーキ屋の子に生まれていれば毎日、ケーキが食べ放題♪」なんて浅はかなことを考えていましたっけ(笑)
売り物のケーキを子供に食べさせるかな──なんて大人目線の疑問は一旦置いておくとしても、毎日毎日、1年後も3年後も10年後も、それこそ店が廃業するまで毎日おやつは生クリームたっぷりのケーキって……
それは天国じゃなくて、もはや罰ゲームでしょう。
どんなご馳走でも、たとえそれが大好物だったとしても、さすがに毎日それを食べさせられたら、「たまには違うものが食べたいな」と考えるのは人情です。
美味しんぼの初期のエピソードにも、遠洋漁業に出た漁師さんたちが毎日のおかずが釣ったばかりのカツオで食べ飽きていたなんていうのがありました。
そんなある日、うっかりサラダ用のマヨネーズにカツオを落とした人がいて、試しに食べてみたらめっぽう旨かった。
それから漁師さんの間ではカツオの刺身にマヨネーズというのが流行ったのだとか。
今のお寿司の原型となる屋台の寿司屋が登場したのは19世紀初頭。
その頃、マグロの豊漁が続いたそうで寿司ネタには事欠かなかったらしいのですが冷蔵庫のない時代では刺身はもたない。
そこで、同時期に安く流通し始めた醤油に漬け込む「ヅケ」という技法が編み出されたと言われています。
けどね、僕はちょっと想像してしまうのです。
寿司に飽きてきた客のひとりが醤油に刺身を浸したままけっきょくほったらかしにして店を出ちゃった。
客が出ていった後でそれに気づいた店主が味見をしたら「意外とイケるじゃねぇか。これも寿司ネタに使ってやれ」──それを店に出したら思った以上に評判になって引っ込みがつかなくなっちゃった。
なんて、愉快なエピソードがあったんじゃないかしら。
だとしたらその店主にはぜひこの丼も食べてもらいたいな。
一口食べた途端、「この丼でもう一山当ててやるぜ」と商魂たくましくほくそ笑む彼の顔が目に浮かぶようです。
【材料】(1人分)
-調理時間:23分-
- ご飯:1膳分
- すし酢:大さじ1
- カツオのさく:100?120g
- トッピング:三つ葉、炒り胡麻、刻み葱、刻み海苔など適宜
[ヅケパート]
- 濃口醤油:18g(大さじ1)
- 味醂:18g(大さじ1)
- 酒:7.5g(大さじ1/2)
- おろし生姜:ひとかけ分
- おろしにんにく:ひとかけ分
- すり胡麻:小さじ1
【作り方】
- [ヅケパート]の味醂と酒を器に入れて電子レンジの500ワットで30秒加熱します。これに[ヅケパート]の残りを加えてよく混ぜます。
- カツオを5mm厚のそぎ切りにします。これを[ヅケパート]に浸して冷蔵庫に入れ15分漬け込みます。
- 2.の工程終わりに合わせて丼にご飯をよそい、すし酢を加えてしゃもじで切るようによく混ぜます。これに2.をヅケだれごと盛り付けて、トッピングを散らせばできあがり。
【一口メモ】
- カツオは生姜、にんにくの風味満点で食欲をそそります。ご飯を酢飯にすることでカツオの濃い醤油味をリセット。カツオ→ご飯→カツオ→ご飯の無限ループができあがっていくらでも箸が進みます。
- 手持ちがあれば卵黄をトッピングしてください。途中でご飯に混ぜ込んでいくと濃厚マイルドな味変が楽しめます。
- カツオの漬け込みを数時間くらいにするとさらに味がよく沁みて丼のグレードが上がります。夕飯に食べるつもりならランチを済ませてすぐに工程2.まで済ませて冷蔵庫に入れておきましょう。