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その他の食材料理(和食)

なじみ豆腐

科学とは因果関係の普遍妥当性を追求する学問である』

僕が中学校で教わった科学の定義です。

中学生に教えるには使っている言葉が難しく当時は理解が追い付いていなかったのですが今では理解できます。

平たく言うとこんな感じ──。

世の中の全ての事象には原因と結果──すなわち因果関係があります。

手から物を離せば地面に向かって落ちていく。

塩を水に入れると溶ける。

水を温めると湯気が出る──それはなぜか?

その「なぜ」を説明するのに「〇〇という原因」があってそれが「△△という結果」を生むといった具合に《原因』と《結果》というアイテムを使って誰も(=普遍)が納得(=妥当)いくように説明しようというのが科学の目的なのです。

で、誰もを納得させる手段として科学者は数値化することを想いつきました。

2人が1個ずつリンゴを持っていてそれを持ち寄れば2個になる──それは誰に聞いてもそれはそうだろうと言ってくれる真理です。

物事の状態を計る客観的な物差しとして数字は非常に便利なアイテムなのです。

明治32年生まれで平成10年まで生きた香川綾さんという医学博士がいらっしゃいました。

日本の栄養学の祖と言っても良い貢献をされた方です。

「日本人の食事は塩分過多だ。その原因は調味を目分量でやっていることにある」

と提唱した彼女は日本で初めて料理に科学の物差しを充てた方でもあります。

彼女は私費で和洋中の著名なコックを家に招き様々な料理を調理してもらいました。

そして調理の前後でどの調味料がどれだけ使われたかを計測し、その結果をまとめて大半の料理に使われる調味料は5ml、15ml、200mlの倍数になる。

故にこの分量の物差しがあれば正確に料理を再現することができるという答えを導きだしました。

これをもとに考案されたのが計量スプーンと計量カップです。

それが戦後すぐのことでした。

けれど、調味料を正確に計るという文化が一般に浸透するのは昭和40年代のことなので随分時間はかかりましたね。

いちいち計るのがめんどくさいというのもあったのでしょうが「目分量で料理ができる」=ベテラン、「調味料を正確に計る」=邪道、人間らしい温かみがない(何?)みたいな変な風潮があったのかもしれないと僕は想像しています。

とまれ、それまでは母が娘に「ここでこれくらい醤油を入れて」と実演を交えて一子相伝的に教えていた調理技術は調味料を数値化することで見も知らない赤の他人にも文章にして手渡すだけで正確に伝えられるようになりました。

そうやって記録されたレシピは今にとどまらず百年後でも千年後でもレシピが文献として残り続ける限りいつでも再現できるのです。

つまり料理は数値化することで普遍妥当性を得たといえます。

江戸時代に作られた料理本「豆腐百珍」を紐解きながら調味料の分量が書かれていることのありがたみを改めて思い知りました。

香川先生、あなたの業績はあまりにも偉大です。

【材料】(1人分) 

調理時間:30分-

  • 木綿豆腐:半丁(約150g)
  • [調味料パート] 酒:50g(1/4カップ)
  • 白味噌:25g

[薬味パート]

  • 長ネギ(青い部分):5cm
  • 青唐辛子なければ柚子胡椒:少々
  • おろし大根:7mmの輪切り分

【作り方】

  1. 豆腐をキッチンペーパーに包んで耐熱皿に入れ電子レンジの500ワットで2分チンします。キッチンペーパーを取り換えて(やけどに注意)ひっくり返したざるに置き上からバット、適当な重さの本などを置いて10分置き水切りをします。
  2. 1.をやっている間に[薬味パート]の長ネギ、青唐辛子は小口切りにします。大根はすりおろしておきます。[調味料パート]は合わせてよく溶いておきます。
  3. 後でフライ返しなどを使って豆腐を掬うのでフライ返しが差し込めるサイズの鍋に[調味料パート]を張り豆腐を入れます。豆腐の上から[調味料パート]をかけてそのまま10分放置し味をなじませます。
  4. 3.の鍋を弱めの中火にかけてふつふつと言い出したら[調味料パート]が焦げないように鍋をゆすりながら3分煮詰めます。
  5. 4.の豆腐をフライ返しなどで掬って深鉢に移します。これに鍋に残った[調味料パート]をかけて上から薬味をトッピングすればできあがり。

【一口メモ】

  • これは江戸時代の料理本「豆腐百珍」に載っている料理で、はんなり優しい味のお惣菜です。特に創意工夫が凝らしてあるのは薬味。青唐辛子がなかったので柚子胡椒を使ったのですがこのピリッとした辛味が良いアクセントになっています。
  • 写真はちょっと失敗して[調味料パート]を煮詰めすぎました。原本によると白味噌を酒で伸ばして味噌汁程度のとろみにするとありますのでもうちょっとさらっとした液体になるのが本来の仕上がりだと思います。(分量比は酒:味噌=2:1くらいで合っていると思います)
  • 名前の由来は豆腐を調味液にしばらく浸けて味をなじませるからとか、お店の品書きにある定番(おなじみ)の豆腐料理だからとか言われているみたいです。
  • 味噌はできれば甘みの強い白味噌を使ってみてください。薬味とのコントラストがくっきり出て全体に調和のとれた一品になります。

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