コナン・ドイルはシャーロック・ホームズが活躍する短編小説を全部で56作書いたそうですが、その中の22番目の作品「ギリシャ語通訳」は、依頼主が異彩を放っている作品でした。

この事件の依頼主は──シャーロックの実の兄、マイクロフト・ホームズだったのです。
探偵が身内から依頼を受けるのってどんな気分なんだろう、なんて思っておりましたが、過日その“気分”を実体験する出来事がありました。
「インゲンの味噌和えのレシピを教えてほしいんだけど」
と、僕の実の娘(長女)から依頼を受けたのです。

「そんな料理、作ったことがない」と答えると、「なら、考えて」と食い下がってくる。
「どういうこと?」と聞いてみると──過日、娘は僕の実家に行き、母が作ったインゲンの味噌和えをいただいたらしい。
その味に感動してレシピを訊ねたのだけど、母の答えは、
「ああ、インゲンを茹でてね、味噌、砂糖、すり胡麻を適当に加えて和えるだけ。味を見て物足りなかったら少しずつ足してちょうだい」
だったという。
いわゆる目分量調理というやつで、なんの参考にもならない。

というわけで、「インゲンの味噌和えのレシピを教えてほしいんだけど」と、長女は僕に訊いてきたわけです。
まさに身内に依頼を受けた私立探偵の気分!
……って、僕は別に探偵ではありませんが(笑)。
それでも、けっこう興味を惹かれるお題だったので、受けて立つことにしました。

まずは、情報整理。
- 母の料理で使う調味料は基本的に「さしすせそ」(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)で、洋・中の調味料は使わない。スパイスの類も基本的に使わない。
- ちなみに、辛味に塩を使うことも稀で、たいてい醤油か味噌を使う。
- 彼女はよく目分量で調理するけど、長年の経験に裏打ちされて、実は加える調味料の量はほぼ一定している。あと、調味料同士の黄金比も決まっている。
- 味噌を主体にした味付けなら、味噌:砂糖=3:1で加えていると考えれば、だいたい合っている。
という母の料理情報に加えて、

- 長女は甘めの味付けが好き。
そのくせ、大酒飲み。

- 料理のコク強化と素材への絡みを良くするなら、タレは味醂で伸ばすのが良いだろう。
という長女情報やオリジナルのアレンジを加味して、この料理を試作してみました。
酒好きな長女の嗜好を加味して、かなり濃いめの味付けにしましたが、
「(母の)オリジナルは白味噌で、これは赤味噌を使っているけど、味自体はすっごく似てる。よく再現できたね」
と、長女に言ってもらいました。

身内からの調査依頼は──
「(失敗した時のことを考えたら)かなりドキドキする」。
シャーロックも内心、ドキドキものだったんじゃないかしら(笑)。
ともあれ、このままレシピを残さなかったら長女に恨まれそうなので、忘れないうちにメモしておきます。
【材料】(1人分)
-調理時間:15分-
- インゲン:100g
[タレパート]
- 味噌:36g(大さじ2)
- 味醂:12g(小さじ2)
- 砂糖:12g(小さじ4)
- すりごま:6g(大さじ1)
【作り方】
- インゲンを茹でる湯(分量外)を沸かします。待っている間にインゲンの両端のひげを切り落とし、2?3等分にしておきます。湯が沸いたらインゲンを加え、中火で5分茹でます。
- 1.を茹でている間に、[タレパート]をボウルに合わせてよく混ぜておきます。
- 1.が茹で上がったらざるに上げ、そのまま人肌(指で触ったらほんのり温かい程度)くらいになるまで冷まします。室温によってばらつきはありますが、だいたい5分くらいで冷めます。
- インゲンを2.のボウルに加えてよく和えれば、できあがり。
【一口メモ】
- かなり濃いめの味付けなので、酒の肴に打って付けなお惣菜になります。薄味がお好みなら、[タレパート]の調味料を2/3くらいに減らしてください。
- 今回、味噌は赤味噌を使ったので渋みや酸味も加わり、酒肴寄りの一品に仕上がりました。白味噌を使えば、はんなりと甘いおばんざい風になりますよ。
- このレシピの要は、タレを絡めるタイミングです。茹でたて熱々の状態で絡めると、味噌の香りが飛びやすいのと、インゲンから立つ蒸気が結露してべちゃっとした仕上がりになるのでおすすめしません。逆に冷蔵庫温度くらいまで冷やすと、味が入りにくくなります。
- ただし、[タレパート]を田楽風に加熱してから絡めるのなら、熱々がおすすめです。また、作り置きして翌日以降に食べる前提なら、冷蔵庫温度に冷やしてからタレを絡めた方が味が安定します。
- 風味のアレンジとして、後味を軽くするなら[タレパート]に米酢を小さじ1/2ほど加えてください。酒肴寄りに仕上げるなら、一味唐辛子や粉山椒を加えるのもありです。ただし、山椒は主張が強いので、ひと撫でする程度のごく少量で。

