今ではずいぶん印象が変わりましたが、昭和の昔、NHKのアナウンサーと言えば「きまじめ」「堅苦しい」の代名詞のような方々で、たまに笑いを取ろうとすると百発百中で滑る──そんな印象がありました(ひどい言いようやな(笑))。

そんな中にあって鈴木健二アナウンサーは異端中の異端。
およそNHKのアナウンサーらしからぬ人物でした。
僕は『歴史への招待』という歴史探訪番組で彼を知ったのですが、とにかくトークが斜め上に面白い。
それまでとは違った切り口で歴史にメスを入れる番組自体も面白く、夢中になって観ておりました。
彼の破天荒な気質は若い頃から培われたようで、旧制弘前高等学校在学中は寮長を務め、禁止されていた学生演劇を復活させたり、女人禁制だった寮に女子学生を招いたりしたそうです。

このエピソードを石坂洋次郎氏に話したところ、面白がられて、それが『青い山脈』の中に取り入れられたと言いますから、学生時代から小説の登場人物のような人だったと窺えます。
NHKを定年退職した後、彼はフリーアナウンサーとなり、執筆や講演活動にも力を入れるようになります。
僕も彼のエッセイを何冊か読みましたが、どれも面白かった。
中でも印象に残っているのは旧制高校時代のお酒に関するエピソード。
未成年の飲酒禁止は大正時代にすでに制定されていたはずですが、旧制高校にはいろいろ「暗黙の了解」的なものがあったようです。

彼は乏しい量の酒でしっかり酔うため、究極のレシピを考案します。
それは──「白ご飯に熱燗をかけてかきこむ茶漬け」。
……あえて料理名を付けるなら「酒茶漬け」といったところでしょうか(笑)。

しかも、それを平らげた勢いで校庭をランニングするまでがワンセットだったとか。
まあ、それは酔っ払うでしょうよ。
「そこまでして酔っ払いたいか」
と呆れる人もいるでしょうが、そのツッコミは野暮というもの。
実際にそれをやってのけている時点で、「そこまでしてでも酔っ払いたかった」のは誰の目にも明白です。

お酒に関しては苦手な方もいらっしゃいますから、この酒茶漬けはあまり汎用的な料理とは言えません。
けれど、「乏しい量のおかずで満足感の高い料理を食べたい」という命題なら、誰しも一度は直面したことがあるのではないでしょうか。
おかずの量が乏しい時でも満腹感を得るために、僕たちはいろいろ知恵を絞ります。
例えば──
- 食材をかさ増しする肉の量が少なくても豆腐や厚揚げを混ぜ込めばボリュームアップが図れます。きのこ類やもやしを一緒に炒めるのも定番ですね。
 - 一品で満足できるメニューにアレンジする丼物、あんかけ、スープ、オムレツ、炒飯など、料理のスタイルを変えると少ない材料でも満足感がぐっと上がります。
 - 満腹感につながる食材を選ぶ食物繊維の多いきのこ・海藻・野菜などは腹持ちを良くしてくれます。
 
豆腐や納豆などの高タンパク食材も消化に時間がかかるのでおすすめです。

それ以外にも、もっと根本的でヘルシーな手法として「食べ方を工夫する」というのもあります。
ゆっくり食べる。
温かい汁物を先に食べる(水分で胃が満たされて食べ過ぎを防げます)。
しっかり水分を摂るのも効果的です。

こういったテクニックを知っていると、アテにしていた材料の量が思ったより少なくても慌てずに済みます。
過日、その日は朝から「夕飯は鶏の唐揚げ」と心に決めておりました。
ところが、夕方冷蔵庫を覗いたら鶏肉が思ったほど残っていなかったのです。

かといって、わざわざスーパーまで出かけるのは億劫。
「唐揚げは諦めて、親子丼にでもするか」
と自問しました。
親子丼ならその量でも十分作れそうだったのです。

が──朝から唐揚げモードだった僕自身が断固反対。
「唐揚げでなきゃヤダ」
とダダをこねる始末。
ならば──親子丼は親子丼でも、唐揚げと卵で親子丼にするか?それでも唐揚げの量が寂しい。
そこで「2.一品で満足できるメニューにアレンジする」を応用して、あんかけの唐揚げ親子丼を作るという結論に至ったのです。

そう、その夜は「そこまでしてでも唐揚げが食べたかった」夜だったのです。
【材料】(1人分)
-調理時間:25分-
- ご飯:1膳分
 - 鶏もも肉:120g
 - 片栗粉:適宜
 - 揚げ油:適宜
 - 卵:1個
 - 玉ねぎ:1/4個
 - サラダ油:6g(大さじ1/2)
 - 刻み葱:ひとつまみ
 - 水溶き片栗粉:3g(小さじ1)分
 
[鶏肉の下味パート]
- 濃口醤油:10g(大さじ1/2強)
 - 酒:8g(大さじ1/2強)
 - おろしにんにく:ひとかけ分
 
[餡パート]
- かつお出汁:30g(大さじ2)
 - 味醂:50g(カップ1/4)
 - 濃口醤油:24g(大さじ1+小さじ1)
 - 砂糖:6g(小さじ2)
 
【作り方】
- 鶏肉を小さめの一口大に切って[鶏肉の下味パート]と合わせて15分漬け込みます。玉ねぎは細切りにします。
 - 1.と並行してフライパンに[餡パート]の水溶き片栗粉以外を合わせて中火にかけひと煮立ちさせます。煮立つのを待つ間に玉ねぎを細切りにしておきます。[餡パート]が煮立ったら玉ねぎを入れて弱火にし2分煮込んで、火を止めておきます。卵はよく溶いておきます。
 - 1.の工程終わり(漬け込み完了の2分前くらい)になったら揚げ油を温め始めます。1.が終わったら水気を切って片栗粉をまぶします。油が180度に温まったら鶏肉を入れて3分揚げ、油をしっかりきっておきます。
 - 2.のフライパンに鶏のから揚げを入れて中火で1分煮ます。更に卵を加えて30秒煮ます。これに水溶き片栗粉を加えてさっと混ぜとろみを付けます。
 - 丼にご飯をよそい、4.を回しがけて刻み葱を散らせばできあがり。
 
【一口メモ】
- 唐揚げが食べたくて鶏もも肉を取っておいたのですが微妙に量が少ない。あっという間になくなりそう。ならばその唐揚げを丼物の具材にしようと思い付き、今日のランチは「唐揚げあんかけ親子丼」と相成りました。味付けは、親子丼なので鰹ダシを使った和風にしています。ボリューミーで美味しかった。
 - おかずがちょっと物足りない時の献立として丼物の具材にするというのは良いアイデアだと思います。別にそれでおかずの量が増えるわけではないのですが、白ご飯と交互に食べることで満足感、満腹感は段違いに変わります。ちょっと、意地の悪い見方をするならば、お店で食べる丼物のご飯を抜いた状態を想像してみてください。びっくりするくらい、おかずの量はちょっぴりなんですよ(笑)
 - 煮汁がご飯に沁み込むのが苦手な方にはこのレシピのように水溶き片栗粉でとろみを付けて"あんかけ"スタイルにするのがおすすめですよ。
 

