2018年にオンエアされた野球アニメ「グラゼニ」は現役のプロ野球選手にも強いインパクトを与えた作品だったようです。

主人公はプロ野球の中継ぎ投手というシブいチョイス。
作品のメインテーマはプロ野球の成果至上主義と年俸の話。
試合のシーンももちろんあるのですが、選手たちの日常シーンや裏話がやたら多い──そんなところが本職のプロ野球選手にとって、リアルに感じられたんじゃないでしょうか。
スポーツを題材にした漫画やアニメは星の数ほどありますが、中でも野球は定番で人気のある競技です。

古くは「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」などプロ野球を舞台にした作品もたくさんあります。
けれど、それらの作品がフォーカスを当てていたのは"試合"そのもの。
そこがグラゼニと好対照なところで、人間離れした魔球を投げるピッチャーと超人的なバッターの勝負が最大の見せ場でしたね。
観客側にいる僕らからすればそんな「名勝負」を見せられたら熱くならずにはいられないのですが、本職のプロ野球選手の目には「所詮、作り話(フィクション)」と映っていたのかもしれません。

民俗学で使われる用語に「ハレ」と「ケ」というものがあります。
「ハレ」は祭礼や冠婚葬祭といった非日常の特別な日を指し、「ケ」が普段の日常を指します。
例えば結婚式などは「ハレ」ですし、ありふれた夕ご飯の一場面は「ケ」と言えます。

この概念を野球漫画に当てはめると巨人の星は「ハレ」を主眼に置いた作品。
グラゼニは「ケ」が主眼の作品と言えるでしょう。
そのスポーツを観客として見物する僕らにとっては「ハレ」のシーンに魅力を感じ、その試合の現場に立っているプロの方たちは「ケ」のシーンをリアルで面白いと感じるというのはなかなかに興味深い。
でも、そのムーブメントは自分に置き換えると非常に納得がいきます。
僕は去年までプロのSEでしたが、常々、映画やドラマに登場するSEを見る度に「ウソ臭さ」を感じていました。

「あ、こいつ今言った(コンピュータ用語たっぷりの)セリフの意味をわからずに丸暗記しているな」
なんて思っちゃうんですよね。
思い切って本職のSEをキャスティングしたら今のセリフはもっとリアルに聞こえると思うんだけどな──なんてね。
けど、本職のSEは演技なんてできませんから、観客からは「嘘くさい!」とブーイングが飛ぶんだろうな(笑)
だから制作陣は劇場用映画=「ハレ」と割り切っていて、「ウソ臭さ」より「格好良さ」を優先すべきというのが業界の今までのお約束だったのでしょう。
その点、グラゼニのような「ケ」を前面に出した作品の登場は意義深いことだったと思います。

同様に料理店を舞台にした映画を作るとしたらスタッフはどのような"絵"を撮ろうとするでしょうか。
例えばその店が老舗のすき焼き屋だったら高級な牛肉がぐつぐつと煮えている鍋をしずる感たっぷりに撮ったりするんだろうな。
その方が観客ウケは良さそうですから。

けどもし、店の従業員が忙しい仕事の合間に(客には出せない)あり合わせの材料でこのレシピのようなまかない料理を作っているシーンを入れたら──本職の料理人や仲居さんは面白がるかもしれませんね。
アニメ「ゲート自衛隊彼の地にて、斯く戦えり」では、空挺部隊の降下シーンの掛け声を本職の自衛官が担当したそうです。
宮崎駿監督が敢えてキャスティングで本職の声優を起用せず素人を抜擢するのも有名な話。
役者の演技ではけっして表現できない本職の人だからこそできる表現もある──そんな演出技法に昨今少しずつ注目が集まっているのかもしれません。
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つまり、"非日常"を描く作品は観客の夢を刺激し、"日常"を描く作品は共感を呼ぶのです。
このいかにも「ケ」の料理な一皿も、高級すき焼きのような「ハレ」感はないけれど、ありふれた夕ご飯のシーンに登場させれば、かえってリアルなしずる感を演出できるかもしれません。
映画の世界に“ハレ”のごちそうがあるなら、家庭の食卓には“ケ”のごちそうがある。
そんな日常の中の贅沢を感じさせてくれる一皿でした。
【材料】(1人分)
-調理時間:13分-
- 牛こま切れ:100g
- バター:5g
- 厚揚げ(できれば木綿):半丁
- 白ネギ:半本
[煮汁パート]
- 出し汁(昆布出汁):25g(25ml)
- 濃口醤油:27g(大さじ1.5)
- 味醂:27g(大さじ1.5)
- 砂糖:6g(小さじ2)
【作り方】
- 牛肉は食べやすい大きさに切ります。厚揚げは半分に切ってさらに1cm幅の小口切りにします。白ネギは2cm幅に切ります。
- フライパンにバターを入れて中火にかけます。バターが半ば溶けたら白ネギを加えて軽く焼き色が付くまで炒めます。これを脇に寄せて牛肉を加え、肉の色が変わるまで炒めます。
- 2.に[煮汁パート]を加えてひと煮立ちさせ、厚揚げを加えて5分煮ればできあがり。
【一口メモ】
- どて煮で使った牛肉の残りをすき焼き風にしたかったのですがなにせボリュームが足りない。そこで夕方のウォーキングに出た時に厚揚げを買って帰ってプラスしました。純粋なすき焼きとはいえないかもしれないけれど、ある意味、すき焼きより満足感の高いおかずです。
- 風味の肝はバター。この香りが食欲を刺激します。やっぱりバター醤油は最強の調味料だと思うな。
- 厚揚げはできれば木綿豆腐を使ったものがおすすめです。厚揚げの代わりに焼き豆腐を使うのもありですよ。その方がより、すき焼き気分を味わえるんじゃないかな。

