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厨房日誌

シェフの料理、主婦の料理

野球の試合で終盤に差し掛かってピッチャーが疲れて来た時──

アマチュアのピッチャーは配球が散ってストライクが入りにくくなる。プロのピッチャーは配球が真ん中に集まって打たれ易くなる、と聞いたことがあります。

どちらも集中力が落ちてきて思うような配球ができなくなって起きる現象なのですが結果が真逆というのが面白いですね。

似たような話でプロのシェフは100皿作っても同じ味に作る。

家庭の主婦は都度味が変わる、と知人に聞いたことがあります。

字面だけ読み取ると、ピッチャーの話と似ているようにも見えますが実は似て非なる話です。

なぜなら、シェフも主婦も意図して(狙って)そうしているからです。


シェフは不特定多数の客に料理を提供するのが仕事です。

客によって味の嗜好は異なりますが、一日に何百皿も作るシェフにとって一人一人の嗜好に合わせた料理を作ることは不可能です。

なので、より多くの客の嗜好の琴線に触れる料理を探求し無骨にその味を再現し続けるのが彼の仕事なのです。

対して主婦は特定の人物(=家族)に日々料理を提供します。家族の嗜好を熟知し、その上で体調やその日の予定を勘案して料理の味を変えていきます。

「今日はお兄ちゃんは部活の特別練習があって汗をかくだろうから」と塩分を少し濃くしたり、

「お姉ちゃんは病み上がりだから」と煮物をいつもより柔らかくしたり、

ベテランの主婦は無意識のうちに同じ料理でも家族の体調などに応じて味や仕上がりを変えていくものだそうなのです。

今日日の主婦でもホントそこまでやるのかなという疑問は多少ありますが(^^;

その上でシェフは客が食べている様子をチェックし、返ってきた皿に残り物がないかチェックして更に多くの人に愛される味を追求していきます。

主婦は食卓で家族の反応を見てより彼らが喜ぶ、そして彼らの体に良い料理を探求していくのです。


料理を他者に提供するという共通の役割を担いながら、立場とシチュエーションが違うと真逆のアプローチになるというのが面白いですね。

ちなみに、僕が想い描く理想の料理屋はその両方を兼ね備えた欲張りな店です。

こじんまりとした店構え、常連であふれる店内、そして常連の嗜好を熟知した店主。

店主は客一人一人の好みに合わせて料理にひと手間かけて出す。

小説かドラマにしか登場しそうにないお店だけれど、もしそんな料理店があったら通い詰めちゃうだろうな。

2020/03/03 Tue.

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