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厨房日誌

ニュアンスの妙

病状が落ち着くと入院生活は案外ヒマを持て余します。

あんまりヒマだったので昨日はYoutubeで国会中継を視聴しておりました。

参議院予算委員会、共産党 山添 拓議員の「桜を見る会」の質疑が下手なドラマより凄みと迫力があって楽しめました(いやエンタメじゃないんだけど)。

次にどんな弾が飛んでくるか予想不可能な質問展開、キリキリ舞してワタワタしっぱなしの総理と官僚たち。やっぱエンタメはこうでなくっちゃ(だから、エンタメちゃうって)。

このブログで政治を語る気はさらさらないのですが、あの緊張感は僕らの日常会話にも通じるものがあるなあと感じました。

僕らが普段、人と交わす会話には当たり前ですけど台本はありません。相手がなんと言うか予想不可能な中、ぶっつけ本番で切り返さないといけません。

唐突に予想外のセリフや質問が飛んできたら誰だってワタワタしちゃいますよね。

演劇漫画の金字塔、ガラスの仮面の初期のエピソードにこんなのがありました。

ある日の稽古で台本が配られます。

書かれていたのはたったの4文字、

「はい」、「いいえ」、「ありがとう」、「ごめんなさい」。

セリフの暗記は一瞬で出来ちゃうし一見簡単そうに見える課題なのですがこれが意外と難しい。

例えば相手が「すみません。駅への道を教えてくれませんか」と言ってきたらいきなり苦戦してしまいます。

恐らくそのセリフに対する最も妥当な受け答えは「ごめんなさい」でしょうね。

僕もこのあたりの地理には暗くて駅への道を知らないのですというニュアンスです。

物語は映画監督と女優のサラブレッド、姫川亜弓が質問役を買って出て飛び入り参加、その相手役に主人公の北島マヤが指名されるという展開になります。

「校長先生の名前は?」なんて意地の悪い質問を連投する亜弓にマヤはそつなく答え続けます。

校長先生の名前の質問にはただ首を横に振るだけ。その仕草と表情すで「転校してきたばかりでまだ知らないの」というニュアンスが伝わってきます。

最後に亜弓は「お好きなレコードをかけてあげましょう。(なんなりと)おっしゃって」という難題をふっかけてきます。

マヤはパントマイムでレコードラックを探す仕草。目当てのレコード(もちろんエア・レコードです)を見つけ出すと亜弓に差し出して「はい」と言います。

マヤの天才性を演出する良いエピソードなのですが、惜しむらくは音声のないコミックでの表現だったこと。

実際にはこの最後の「はい」は呼吸とイントネーションに物凄く神経を遣う必要があって、例えば別の研究生が全く同じ演技をやっても大失敗する可能性があります。

特に呼吸は大事。マヤの演技は相手の姫川亜弓がこのあと「ありがとう」と言ってレコードを受け取って初めて成立するものなのです。

つまりマヤはセリフを発する瞬間に亜弓が言葉のボールを受け取る体勢にあることを見極めなければなりません。

もし受け取る体勢になっていなければ、思わず受け取ってしまうようなボールの投げ方をする必要があります。

これが難しい。いわば不意打ちを食らわすわけですがそれができるのは努力の範疇ではなく才能の範疇だからです(もちろん、努力で近いことはできると思うのですが)。

過日、ネットニュースで年配のお客様に褒められたエピソードが書かれていました。

ところが「ありがとうございます。励みになります」と言ったところ、「いや、そこは謙遜しなさいよ」と憮然とされたとか。

また、めんどくさいお客がいたものですが、それでも客には違いありませんから無視するわけにはいかず、なんらかの受け答えをする必要があります。

このケースで最悪の切り返しは相手を説得しにかかること。「いや、わたしが言いたいのはですね……」というのは下の下です。

相手はご年配。褒められたら謙遜するものという固定観念に凝り固まっている人にそんなことをしても大不興を買うだけでしょう。

僕が考えたベストの切り返しはシンプルに

「失礼しました」

とだけ切り返すこと。

で、今後、このお客様に対してはそういう人だと頭において接客すること。

けどね、このたった一言の「失礼しました」が難しいのです。

呼吸とイントネーションを間違えると慇懃無礼に取られかねない。

相手の目を読んでボールを投げるタイミングを図って、いささか不意打ち気味にボールを相手の掌の中に投げ入れる。

相手はおやっと手元を見て思わずにやりと笑う。

場の空気が緩む。「ありがとうございます。励みになります」という一言を失言から笑い話に変えてしまう。そんな離れ業が要求されるのです。

「はい」、「いいえ」、「ありがとう」、「ごめんなさい」の試練は意外に日常の中に潜んでいます。

予期せぬタイミングでいきなり喉元にナイフを突きつけられるように返答を求められることがあります。

演技の天才の北島マヤならいざしらず、平凡な一サラリーマン、一OLに降りかかるには過酷な試練といえるでしょう。

では、こんな試練にどうやって備えるか?

言えることは日々言葉のキャッチボールの鍛錬に励もうよということくらいかなぁ。

けどね、断言しますが僕ら凡人がいくら鍛錬に励んでも会話の不意打ちを喰らったときに毎度絶妙な切り返しをすることは無理だと思います。

僕もしょっちゅう、「あ、あの時はこう切り返せば良かった」って悔やんだり反省したりしています。

ま、100%の確率でそれができるのなら芸人になれますよ。それくらい会話の不意打ちは怖いものです。

それに比べたら事前に「こういう質問をしますよ」と予告してもらっておいてあの狼狽えぶりは情けない。あ、国会の話ね。

サラリーマンの何倍もの給料をもらってるんだから、しっかり仕事してくださいな。

2020/01/31 Fri.

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