今日は祝日で比較的のんびりしているのでちょっと雑談をしてみたいと思います。
サハラ砂漠に砂金は何グラム埋まっているか? って、訊かれたらあなたはなんと答えるでしょう。
あるいは渋谷駅のスクランブル交差点で信号をフライングする人は1日に何人くらいいるか? と訊かれたらどうします?(って、普通は訊かれないけど)
まあ、後者の質問は本気を出せば監視カメラのデータを入手して丹念にカウントすればなんとかなるかもしれません。
けど、サハラ砂漠の金の埋蔵量なんて雲を掴むような数字は答えようがないですよね。
こういった実際に調査するのは困難でとらえどころのない数字に対して概算を導き出す手法を考案者の名前を取って「フェルミ推定」と呼びます。
フェルミさんは20世紀前半に活躍したイタリアの物理学者で周りの人から「概算の達人」と呼ばれていたそうです。
彼が概算の実施例に挙げた問題に「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」というのがあります。
この問題を出された生徒たちはさぞ困惑したことでしょう。
中には「そんなのわかるわけがありません」と口答えするやんちゃな生徒もいたかもしれません。
それに対してフェルミ先生が提示した解法はこんな感じでした。
シカゴにピアノ調律師は何人いるか?
この問題を解くにはいくつかの前提条件を設定する必要があります。
前提条件は次の2種類に分類されます。
- 「シカゴにあるピアノ」に関する前提条件
- 「ピアノ調律師」に関する前提条件
では、フェルミ先生がどのような前提条件を設定したか見てみましょう。
「シカゴにあるピアノ」に関する前提条件
- 前提条件1:シカゴの人口を約300万人とする
- 前提条件2:シカゴの1世帯あたりの平均人数を3人とする(両親と子供1人ってところかな)
- 前提条件3:シカゴでピアノを保有する世帯は10世帯あたり1世帯とする
- 前提条件4:ピアノは1年に1度、調律されるものとする
「ピアノ調律師」に関する前提条件
- 前提条件1:ピアノ調律師は1日に3台のピアノを調律することができるとする
- 前提条件2:ピアノ調律師は週に5日働くこととする
前提条件に基づく推定
では、設定した条件から概算を推定してみましょう。
この問題を推定するには2つの段階を踏まえる必要があります。
ステップ-1 シカゴにピアノは何台あるか?
- シカゴの人口は約300万人であり1世帯の平均人数は3人なのでシカゴには100万世帯が暮らしていると推定される
- シカゴでピアノを保有する世帯は10世帯あたり1世帯なのでシカゴには10万台のピアノがあると推定される
ステップ-2 1人の調律師は1年に何台のピアノを調律できるか?
- ピアノ調律師は週に5日働く。1週間は7日なので彼は1年の5/7働いていると言える。1年は365日なので彼が1年で働く日数は365日✕(5/7)=約260日であると言える。
- ピアノ調律師は1日に3台のピアノを調律することができるので1人の調律師が1年に調律するピアノの台数は3台✕260日=780台と推定される。
【結論】シカゴにピアノ調律師は何人いるか?
ステップ-1でシカゴにはピアノが約10万台あり、ステップ-2で1人のピアノ調律師は1年に約780台のピアノを調律すると推定した。
故にシカゴにある全てのピアノが1年に1度調律されるとすると、シカゴには100,000÷780=128人のピアノ調律師がいると推定される。
なんだか狐につままれたような気がしないでもないですが推定の進め方には1ミリのまやかしもありません。
お見事というしかありませんね。
フェルミ推定にまつわるよもやま話
フェルミ推定を使った推定の精度は前提条件の正確さにかかっています。
たとえばこの例でいえばピアノが実際には5世帯に1台の割合で保有されていたりピアノ調律師が1日に5台は調律可能であれば結論は大きく変わってきます。
なので、設定する前提条件については可能な限り綿密な実地調査をすべきと言われています。
フェルミ推定は一時期、就職試験の筆記問題で大変人気があったそうで就活生たちはみっちり練習していた時期があったようです。
ただ、そういったものも流行り廃りがあるのか、あるいは対策を練ってくる学生が多くてみんなが高得点を取るようになっちゃったのか今ではそれほど出題されなくなったと聞きます。
いずれにせよ掴みどころのない事物に対してざっくりと当たりを付ける手法を知っているというのは実生活でけっこう役に立つことがあります。
この機会に身の回りを見回してみて「これっていくつくらいあるんだろう」と推定してみてはいかがでしょう?
2021/09/23 Thu.