アニメーション制作の裏側を描いたアニメ(ややこしい)、SHIROBAKOを観てきたら物作りの現場の生々しい話が書きたくなったので書きます。
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2017年夏アニメに「ニューゲーム(二期)」がありました。
原作はゲーム会社のお仕事を基軸にした4コマ漫画だそうですが、結構リアルでシリアスなお仕事ネタもあり見ごたえがありました。
二期というからには一期があったわけで、一期がヒロインの入社初日から始まるのに対して、二期は新作ゲームのプロジェクトにヒロインが参画するところから始まります。
しかも、新作ゲームのアイデア出しで先輩達を差し置いて彼女のプランが通り、キャラクターデザインを任されるという大抜擢。キャラクターデザインはゲームの絵柄全般を決める重要な仕事です。
例えば、同じ内容のゲームを作るにしても手塚治虫がキャラデをやるのとさいとう・たかをがやるのでは、全然違うゲームに見えちゃいますよね。
現実には駆け出し1年目でそんなことあるもんか、なんてそしりはあるでしょうけれど物語としては胸弾む出だしでした。
やがて、そろそろキー・ビジュアルを作らねばという話になります。キー・ビジュアルとは新作ゲームのお披露目に使われる絵。
この絵とキャッチコピーだけで、これがどんなゲームなのかを購買層に伝えなければならない重要な商材です。
その絵を観て、「あ、これ絶対買いたい」と思わせなければなりません。キー・ビジュアルも当然彼女が描く予定だったのですが、スポンサーから横槍が入ります。
「既に何作もヒット作を飛ばしていて名前が売れている先輩社員が描くように」と。
それを聴いて一番激怒したのはその先輩社員でした。「そんなことをしたら購買層にはあたしのゲームだと刷り込まれてしまう。(ヒロインの)デビュー作なのに彼女の名前がかすんでしまう」と。
けれど、プロデューサーに窘められるのです。「どっちの方が売れると思う?」と。
これがゲーム同好会とゲーム会社の違いなのだと思います。
好きでやっていれば良いのと売らなければいけない責任を背負って仕事でゲームを作っていることの差なのでしょう。
購買層の心を掴めるのなら理不尽すら呑み込む。その頭の切り替えができなければプロとはいえないのだと思います。
結局、コンペ(二人がそれぞれキー・ビジュアルを描いて良い方を採用する)という話になりますがプロデューサーに釘を差されます。
「これは出来レースだよ」と。
つまり、最初から先輩社員の案が通るのが決まった上でやると。
けど、できあがったキー・ビジュアルを見比べるとヒロインの作品は良い出来だったのですが、僕のような素人が見ても先輩のほうが上を行っていました。
「出来レースなんて言わせない。実力で勝つ」という先輩の意地を感じましたね。
それから後もヒロインの机にはずっと自分のキー・ビジュアルが飾ってありました。
それは彼女の悔しさの証であり、腐らないための戒めであり、更に成長するためのバネだったのでしょう。
芸事の世界に本来年功序列はありません。
実力があれば若かろうが主役を勝ち取れます。けれど、集客を考えた時、「無名」というのは恐ろしいものです。
これは一種の博打で、良い芝居だったのにまるで客が入らず、興行的には大失敗となるリスクを含んでいます。それで劇団が傾いたりしたら本末転倒も良いところ。
だから、既にファンが付いているベテランにどうしても良い役が回されます。
無名なうちは実力では勝っていても涙を飲まなければならない局面が往々にしてあります。
それで嫌になってしまえばおしまい。それでも倦まずにステップアップしていけば、いつかチャンスが巡ってくる可能性はあります(あくまで可能性ですが)。
けど、どうしてもやりたかったあの役はもう回っては来ない。
あの日立ちたかった舞台に立てることは永遠にありえない。
それはネームバリューの理不尽という言葉と一緒にずっと心に刺さった棘になっていくのでしょう。
けど、それをケロッと忘れるようではまた役者に奥行きが出てこない気がします。
それぐらいの執念深さがあってこそ役に深みがでてくるのもまた事実なのです。
2020/3/9 Mon.
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