僕が子供時代を過ごした昭和の頃はいろいろな物の価値の計り方が権威主義っぽくてあなたまかせで自分で物の価値を考えることが希薄だった気がするなと振り返って思います。
今風の「人がなんと言おうと僕はこれが好き」なんて考え方をする人が少なかったような気がします。
たとえば「クラシック音楽は高尚」という妙な風潮がありました。
ろくすっぽ演奏を聴いていないのに「だってベートヴェン作曲だし」とか言ってありがたがったりしてw
あるいは「漫画は低俗」という妙な風潮もありました。
手塚治虫をはじめとする作品群がつるし上げに遭ってヒステリックなPTA役員がいる地区では学校にそれらの本が集められて焚書(本を焼くこと)されたこともあったとか。
さすがにそれは僕が生まれる前の時代の話なので詳しいことは知りませんが僕の想像では漫画を指弾した人たちって実はろくすっぽ中身を読んでなかったんじゃないかなと意地の悪い想像をしてしまいます。
似たような「妙な風潮」は料理の世界にもありました。
「フランス料理は高尚」
「このステーキは上等で旨い。だって100グラム●●円もするんだぜ」
なんてね。
料理の価値を自分の舌で感じるのではなく食通たちの評価やメニューに書いてある値段で無思考に決めてしまう風潮はあの頃、確かにありました。
多くの人がそれを肌で感じていたからこそそんな風潮を皮肉る話がウケたのでしょう。
1970年代、昭和の後期になると食の権威主義のアンチテーゼとして様々な料理漫画が登場しました。
包丁人味平、ミスター味っ子、美味しんぼ、食戟のソーマなどなど。
料理に対する切り口は作品ごとに違いましたが共通するのは主人公の立ち位置が権威の対極にあったことかな。
で、料理対決ともなれば料理の知識と発想力でチープな食材を昇華させ高級グルメを打ち破る──なんてのが定番の展開でした。
そういったアイデア料理の一大ジャンルに「なんちゃって料理」というのがありました。
なんちゃってステーキ丼、なんちゃってローストポークなどなどチープな材料を使っているのにまるで本物の●●みたいと思わせるアイデア料理です。
で、時として味は本物以上だったりするというw
諸物価高騰の折、そんな「なんちゃって料理」にスポットライトを当てるというのもありかな──なんて考えまして、こんな料理を作ってみました。
【材料】(2人分)
-調理時間:10分-
- 牛こま肉:200g
- キャベツ:2枚
- 薄力粉:少々
- 卵:1個
- パン粉:適宜
- 揚げ油:適宜
[下味パート]
- 水:30g(大匙2)
- 濃口醤油:9g(大匙1/2)
- 塩:ひとつまみ
- ブラックペッパー:少々
- ナツメグ:少々
[ソースパート]
- トマトケチャップ:15g(大匙1)
- ウスターソース:12g(小匙2)
- 赤ワイン:5g(小匙1)
- 濃口醤油:数滴
- バター:5g
【作り方】
- 揚げ油を170度に温めます。牛肉をざく切りにしてボウルに入れ[下味パート]を加えてよく混ぜます。これを二つに分けて肉を圧着させるようにしながら小判型に整形します。卵はよく溶いておきます。
- 1.のお肉に薄力粉を薄くまぶして卵液をくぐらせパン粉を付けます。再度、卵液をくぐらせてパン粉を二度付けします。揚げ油が温まったらこれを投入し1分半、いじらずに揚げます。菜箸でひっくり返して更に1分半揚げたら引き揚げ油をよく切ります。
- 2.をやっている間にキャベツを1分半水に浸け水切りをして千切りにします。
- 3.と並行して[ソースパート]をフライパンに入れ弱火でとろみが付くまで煮詰めます。
- お皿にキャベツを盛りそれに被せるように2.を盛り付けて上から4.をたっぷりかければできあがり。
【一口メモ】
- ミンチと違って肉の食感がしっかりしています。これはもはやメンチカツではなくビフカツ! なんちゃってビフカツと呼んで良い料理だと思います。
- 肉を食べている! という実感を味わいたくて敢えて野菜を入れていません。定番の玉ねぎやキャベツのみじん切りをはじめとして野菜やきのこのみじん切りをお肉に加えると味がぐっと複雑になってまた楽しいですよ。
- 肉を前面に押し出しているので正直に言うと安いお肉だと風味がちょっと残念な感じ。それを補う一案としてこのレシピでは濃い目の味付けのニューヨークスタイルのソースをチョイスしました。