横溝正史は「黒猫亭事件」の中で推理小説の三大トリックとして「密室」、「一人二役」、「顔のない死体」を挙げてその特徴を語っています。
曰く、密室はその演出も変幻自在、多種多様な仕掛けが仕込める。
一人二役は切れ味の鋭いトリックだが読者に見破られた時点で作者が負けるもろ刃の刃。
その二つに比べて顔のない死体(火傷や損傷などで顔がつぶれて誰だかわからなくなっている死体を使ったトリック)はAがBを殺したと思わせておいて(Bが死んだと思わせておいて)、実はBがAを殺して死体を自分に見せかけていたの一辺倒で面白みがないと。
ま、そのアンチテーゼとして彼は「黒猫亭事件」を上梓したのですが。
で、ラストまでそれが使われたことがばれてはいけないと彼が語った「一人二役」と似たトリックに「二人一役」というのがあります。
Aという人物をあるときは本人がまたある時はBが演じるトリック。
あるいはCという人物をAとBが時々で演じるトリック──これを使えばアリバイ工作も自由自在なのですがこのトリックも謎解きまでバレてはいけない類のものです。(いや、犯人的には永遠にバレちゃいけないのですが)
この「二人一役」のトリック(?)は料理の世界でもしばしば使われます。
例えば中華料理の定番に「麻婆豆腐」がありますがこの料理のN人一役とも言うべき料理として「麻婆茄子」だの「麻婆春雨」だのが考案されました。
つまり同じ味付けの皿の主食材を豆腐から茄子や春雨に置換することで違った趣を演出する料理です。
料理は小説と違ってビジュアルを伴うので豆腐が茄子に入れ替わっていることはトリックとしてはバレバレなのですが、同時に麻婆〇〇という料理であることも見ればわかるので麻婆豆腐しか知らない人が見たら「お、豆腐を茄子に替えてみたのか。面白いじゃん」と新鮮味を演出することができます。
過日、牛こまが冷蔵庫に残っていたのを思い出して「今夜は肉じゃが」と考えていたのですがあいにくじゃがいもが切れかけていたのです。
で、代わりに大根を使ってこんな料理を作ってみました。
さて、この料理(トリック)、お味の方はいかがでしょう。
(って、肉じゃがと同じ味付けだって)
【材料】(1人分)
-調理時間:25分-
- 牛こま:100g
- 大根:3cm
- 生姜スライス:1枚
- サラダ油:4g(小匙1)
[調味料パート]
- 濃口醤油:18g(大匙1)
- 味醂:12g(小匙2)
- 砂糖:9g(大匙1)
[煮汁パート]
- だし汁(昆布だし):80g(80ml)
- 味噌:6g(小匙1)
- オイスターソース:6g(小匙1)
【作り方】
- 大根は皮を剥いて7mm厚のいちょう切りにし5分下茹でし、ざるに揚げて湯切りします。待っている間に牛肉は食べやすい大きさに切ります。生姜は千切りにします。
- 小鍋にサラダ油と生姜を入れて中火にかけます。香りが立ってきたら牛肉を入れて色が変わるまで炒めます。
- 2.に[調味料パート]を加えて1分炒めます。更に大根を加えて1分炒めます。
- 3.に[煮汁パート]を加えてひと煮立ちさせます。火を弱めて蓋をし、10分煮込めばできあがり。蓋を取って粗熱を取りながら味をなじませます。
【一口メモ】
- 肉じゃがのじゃがいもを大根に替えてみた料理です。味付けのベースは肉じゃがそのものですが、大根は少しえぐみがあるので針生姜と隠し味に味噌を使っています。加えてオイスターソースをプラスして風味を複雑にしました。
- お好みでしめじなどの茸を加えても美味しいです。その場合は牛肉と同タイミングで加えて炒めてください。
- 使う昆布だしは80mlと中途半端な量なので昆布だしの素を使うと便利です。