僕が社会人になって最初に行きつけにしたお店は焼鳥屋でした。
当時は実家暮らしでそこから徒歩3分。
しかも最寄り駅に行く途中にある店だったから──その店ののれんをくぐった理由はそれだけでした。
けど、ご店主や常連の方々の人柄が良く妙に居心地がよくてあっという間に居つくようになりました。
週に2、3回は顔を出していたんじゃないかな。
焼き鳥屋の味付けはタレと塩に大別されますがその店のウリは何と言ってもタレ。
創業以来、調味料を追い足して作られたその味は年輪に見合う貫禄のある味でした。
そういえば阪神大震災の直後に顔を出した時も「タレは大丈夫だった?」なんて開口一番訊きましたっけ。
普通、店主のご家族の安否なりを先に訊くだろうに僕もなかなかに失礼な客だったなw
そのタレをたっぷり付けて焼くもも肉の1枚焼きは他所では絶対に味わえない絶品で必ず最初に頼む品でした。
けど、振り返ってみるとメニューの品数はさほど多くなくて鶏の部位ももも、胸、肝くらいだった気がします。
店主は60前後のご夫婦。
こじんまりとしたたたずまい。
ホント映画のワンシーンに出てきそうな昔ながらの焼鳥屋さんでした。
それが僕が二十台半ばだった頃のお話。
それから僕も結婚して別の町に移ってすっかり足が遠のいてしまいました。
気が付けば僕も60に手がかかる年。
今でも実家に戻るときには前を通るので店が健在なのは存じているのですがちょっと気後れしてのれんをくぐったことはありません。
店に入ってしまったらあのご夫婦が既に鬼籍に入っておられることを聞かされるんだろうなと思うとちょっとした覚悟がいるんですよね。
当時から息子さんが店を手伝っていましたので今では代替わりして息子さんが経営されているんだろうなと想像しています。
店の外にかかっているお品書きを見ると扱う鶏の部位も増えてすっかり今風の焼鳥屋さんらしいラインナップに様変わりしています。
あのタレは今でも健在なのかしらん──そんなことを気にするくらいなら一度覗いてみれば良いのに。
なんて思いはするのですが。
あの頃にはなかった品書きですが今行けばこの「ぼんじりの塩焼き」なんかもきっと食べられるんでしょうね。
夕飯にこれを作りながらちょっとノスタルジックな気分に浸っておりました。
【材料】(1人分)
-調理時間:50分-
- ぼんじり:8個ほど
- サラダ油:4g(小匙1)
[浸け汁パート]
- 酒:15g(大匙1)
- 塩:2つまみ
- 鶏がらスープの素:小匙1/2
- おろし生姜:ひとかけ分
- おろしにんにく:ひとかけ分
- ブラックペッパー:少々
【作り方】
- ぼんじりに毛根が残っている場合は骨抜きで取り除きます。骨に沿ってV字に包丁目を入れて骨を取り除きます。皮の真下にある黄色い脂身(油つぼ)も取り除きます。
- 1.と[浸け汁パート]を合わせて30分置きます。
- フライパンにサラダ油を入れて2.を[浸け汁パート]ごと加え良くまぶし、皮を下にして並べます。フライパンをごく弱火にかけて蓋をし、10分蒸し焼きにします。蓋を取ってぼんじりをひっくり返し再度蓋をして5分蒸し焼きにすればできあがり。
【一口メモ】
- ぼんじりは鶏の尾羽の根本にあたる部位です。脂身が多いところですが焼き物にするとジューシーでめっちゃ美味しいですよ。
- お好みで七味唐辛子をかけるのもありです。
- 今回は[浸け汁パート]の塩、鶏がらスープの素の代わりにインスタントラーメン(塩味)の粉末スープを使ってみました。けっこう複雑な風味になるのでおススメです。
- 工程1.の下ごしらえはお店で出す料理向けの処理です。家で食べる場合は面倒であればそこはすっ飛ばして食べる時に骨を取りながら食べるというのもありですよ。