僕の母方の祖母は大正生時代の女学校の級長がそのまま年をとったような人でした。

切れ者だけど堅物。
辛抱強くて執念深い。
新しもの好きな反面、頑迷なまでの保守派──そんな相反する性格が不思議となんの矛盾もなく共存しているような人。

そして何より豪放で豪快な人でした。
ま、デパートで値切り交渉を始めるなんて人はなかなかいないでしょう。
その加減を知らない豪快さが料理に向かうと……

家族みんながため息を吐くような結果を生み出しました。
たとえばおせち料理。
でっかい丼鉢に2杯も黒豆を作って誰が食べるねん…………
あ、愚痴が出てしまった。
ま、そういう人でした。
一事が万事で毎年春になると彼女は梅酒を漬けるのですがだいたい20瓶くらい作っていましたね。

子供を除けば大人は4人しかいない家族でどんだけ飲むねんという量(ま、全員酒飲みでしたが)。
自然と我が家の物置には2年もの、3年ものと年代ものの梅酒がずらりと並んでさながら梅酒の博物館のようでした。
けど、この梅酒にはずいぶん助けられたんですよね。
彼女が鬼籍に入って3年後に阪神大震災が起きたのですが棚の方向が良かったらしく割れた瓶は1瓶だけ。
食料の買い出しもままならない中、生き残った梅酒は被災地の夜をずいぶんと楽しいものにしてくれました。

梅酒同様、彼女が毎年春になると漬けるのが梅干し。
子供の頃はすっぱくて塩辛くてとても食べる気がしない代物でした。
けど、この年になると市販の梅干しはマイルド過ぎてなんだか物足りなく感じるのです。

あの口がひん曲がりそうな塩辛い梅干しをもういっぺん食べてみたいな──なんて思いながらこんな料理を作ってみました。
【材料】(1人分)
-調理時間:12分-
- 鶏胸肉:半枚(約150g)
- 茄子:1本
- ごま油:12g(大匙1)
- 片栗粉:適宜
[下味パート]
- 濃口醤油:6g(小匙1)
- 酒:5g(小匙1)
[調味料パート]
- 濃口醤油:9g(大匙1/2)
- 酒:15g(大匙1)
- 味醂:18g(大匙1)
- 砂糖:4.5g(大匙1/2)
- 梅干し:1粒
【作り方】
- 鶏肉は皮を取ってそぎ切りにし[下味パート]と合わせて2.が終わるまで漬け込ます。茄子はがくを取って縦半分に切り更に5mm厚の半月切りにします。梅干しは果肉を種から外して叩き[調味料パート]の残りと合わせておきます。
- フライパンに茄子とごま油を入れて中火にかけ茄子が油を吸いきって角が丸くなるまで炒めます。これを一旦皿に取ります。
- 鶏肉の表面に薄く片栗粉をまぶして2.のフライパン(洗わずにそのまま使います)に入れて中火にかけ表面に焼き色が付くまで焼きます。これに茄子と[調味料パート]を加えて蓋をし、3分蒸し焼きにします。蓋を取って水気がほぼなくなるまで炒めればできあがり。
【一口メモ】
- 梅風味のさっぱりした炒め物。食欲の落ちる夏にはぴったりの一皿です。
- 梅干しはできれば塩分高めで酸味の強いものがオススメ。ガツンとくる風味が却って食欲を湧き起こしてくれます。
- 手持ちがあれば千切りにした大葉をトッピングすると色目的にも華やかになりますよ。あと、胡麻をまぶすと風味がぐんと良くなります。

