都会の暮らしに疲れたら、カントリーライフへのあこがれが募る──なんて話をよく聞きます。
けれど、実際に仕事を辞めて田舎暮らしを始めたら、思っていたスローライフとはぜんぜん違って、とにかく大変! 早々に今度は田舎暮らしをリタイアしちゃったなんてのもまたよく聞く話ですね。
ご近所づきあいが想像以上に大変だったとか、それでも頑張ってお付き合いしたのによそ者扱いされてハブられたとか、へびとか虫が大量にいたとか、挫折した理由はいろいろあると思うのですが、その最たるもののひとつは"不便"に関するものじゃないかなと僕は想像します。
都会で暮らしていると"当たり前"だと思っていたことが田舎では通用しないことが多々あります。
「今はネット社会で、仕事だってネットがあればできちゃう時代。へーき、へーき」
なんて高を括る前にちょっと想像を膨らませてください。
特にこの3つがきついんじゃないかな。
1つ目はお店が少ないこと。
ちょっと歩けばスーパーもコンビニもある──なんてわけにはいきません。
《〇〇スーパーまでここから5km》なんて看板が平気で立っていたりしますから。
「どうせネットで買い物するから俺には関係ないもん」なんて言うなかれ。
例えば飲食店が駅前の定食屋、一軒のみだとしたらどうでしょう。
来る日も来る日も同じメニューばかり。
料理ができない人にとっては、さながら罰ゲームです。
当然、ウーバーなんて来てくれない土地柄です。
これはネット通販では解決しない不便さですよね。
2つ目は交通が不便なこと。
電車の本数がやたら少ない、駅と駅の距離がハンパなく遠い、網目のように張り巡らされた地下鉄など望むべくもない、なのでおでかけがとっても不便になるのです。
こういう時もネットはなんの役にも立たず、結局、自動車がないと何もできないということになります。
3つ目は医療が不便なこと。
『Dr.コトー診療所』を読んだり、ドラマを観たことがある人なら、容易に想像できるでしょう。
近場にある医療機関が小さな診療所ひとつきりというのはなかなかリスキーな状況、これだってネットはなんの役にもたちません。
お腹が痛くて転がり回っている状況で"100km先の隣県に良い病院があるよ"なんて情報を見せられてもしょうがないですよね。
誤解がないように断っておきますが僕は別に田舎暮らしをディスる意図はありません。
ここに書いた"不便さ"はつい数十年前には日本中どこにでもあった不便さでしたから。
僕だって子供の頃のことを振り返ってみると60歳を過ぎた今の時代は便利になったよなぁと感激することしきりです。
僕らが"当たり前"と思っていることのほとんどが実は"当たり前なんかじゃない"ということを僕らは忘れています。
だってそれは当たり前すぎるくらい"当たり前"だから。
例えば、僕らは料理をする時に当たり前のようにガスコンロやIH調理器を使いますが、もし生まれるのが100年前(1925年)の大正から昭和に変わる頃だったなら、かまどで煮炊きしていたはずです。
ガスコンロは登場していましたが、まだ都市部のお金持ちの家でしか使われていない時期でしたから。
調味料はさしすせそ(酒、塩、酢、醤油、味噌)のみ、マヨネーズもケチャップも〇〇の素もないので全て自分でブレンドして調味していました。
売られている食材は野菜は全て丸ごと。
魚だって切り身なんか売っていません。
まるごと買ってきて自分でさばかないといけなかったのです。
お肉?
……めちゃくちゃ高価で、庶民が簡単に買えるような食材ではありませんでした。
それに比べて令和7(2025年)の今はお肉も魚も調理しやすいように切り分けられたものが売られています。
それでも面倒だというのなら調理済み・下ごしらえ済みの食材と調味料がセットになったミールキットがお手頃価格で手に入ります。
それすら面倒なら冷食、レトルト、スーパーのお惣菜などなどが、より取り見取り状態。
目移りするくらい種類も豊富です。
料理の手間そのものは100年前と大して変わらないのですが、昔と違うのは、僕らの代わりに誰かがその手間を代行してくれている点でしょう。
調味料にしてもイチからブレンドしなくて良いように予めブレンドの手間、ダシを取る手間を省いてくれているものがたくさんあります。
〇〇の素、焼き肉のたれ、パスタソース、ドレッシング、チューブ入りのおろしにんにくや生姜、だし入り醤油、すし酢、めんつゆ、白だし──これらをイチから作るとしたら、僕らは夕飯の支度にどれだけの時間を割かれるでしょう。
その手間を誰かが肩代わりしてくれている便利ツールを"当たり前"のように使う僕らは……ちょっと罰当たりな気もするな(笑)
このレシピはお酢を使わないのにしっかり酸味が利いた"お酢いらず"です。
その秘密は市販のパックのもずくを使っていてそれに三杯酢などが入っているから。
これもまた100年前なら生のもずくを洗って、手製の三杯酢に漬けていた手間を誰かが肩代わりしてくれた恩恵なのです。
僕らの"不便"を解消してくれている見知らぬ誰かにささやかな感謝を込めて。
存分に令和の”便利"を満喫しましょう。
【材料】(1人分)
-調理時間:7分-
- もずく(市販の3個パックのやつ):1パック
- むき海老:30g
- オクラ:2本
[調味料パート]
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 味醂:6g(小さじ1)
- レモン果汁:5g(小さじ1)
- おろし生姜:ひとかけ分
- かつおだしの素(顆粒):少々
【作り方】
- むき海老とオクラを茹でる湯(分量外)を沸かします。待っている間にオクラのがくを切り取っておきます。
- 湯が沸いたらむき海老、オクラを入れて1分茹でます。茹で上がったらざるに上げて流水で粗熱を取ります。更に氷水に入れて急冷します。
- 2.と並行して盛り付ける器に[調味料パート]を合わせてよく混ぜておきます。
- 2.をざるに上げて水気を切ります。オクラは7mmの斜め切りにします。海老、オクラ、もずくを3.の器に入れてざっと混ぜればできあがり。冷蔵庫でよく冷やしてからいただきましょう。
【一口メモ】
- 食欲が落ちる夏、冷たく冷やした酢の物はそれだけでごちそうです。しかも冷たいアイスやかき氷より栄養価も高く落ち込んでいた体力を引っ張り上げてくれます。
- 風味の決め手はおろし生姜。これを加えるだけで、舌の上で感じる冷たさが一段と際立つ気がします。手持ちがあればみじん切りにした茗荷などもプラスしましょう。
- 薬味を添えたい場合は風味の香ばしさを重視して炒り胡麻、刻み海苔、削り節などがおすすめです。
- 手持ちがあれば茹でたタコなどを加えても美味しいですよ。