中国の超絶旨いスープに「佛跳牆」というのがあります。
日本ではまだ知名度が低くて読みが定まっていないのですが美味しんぼでは「ファッチューチョン」の名前で紹介されていましたね。
観光ガイドなどではしばしば「ぶっ飛びスープ」という呼び名が使われているようです。
名前の意味は「あまりの美味しそうな匂いに修行中の僧さえ塀を飛び越えて食べに来る」といったほどの意味だとか。
似た由来の料理名で「ヤンソンの誘惑」というのがあります。
こちらはスウェーデンの家庭料理。
菜食主義の宗教家ヤンソンさんがあまりの美味しそうな見た目と匂いについふらふらと口にしてしまったという俗説があります。
ちなみにヤンソンの誘惑はアンチョビを使っているのでもちろん菜食主義の人にはNGなのです。
世界中の多くの宗教が食事にまつわる戒律を設けていてその宗教を信仰している人たちはその戒律に従った食生活を送っています。
けど、それはそれとして「美味しいものが食べたい!」という欲求には勝てないというのも無理からぬこと。
美味の追求のために如何に戒律を破らず美味しい料理を作るかという研鑽を重ねてきた──というのも宗教の歴史の一面じゃないかなと僕は思っています。
日本では長らく仏教が広く信仰されてきました。
仏教では「(動物の)殺生はダメ」なのでタンパク質は自然と植物性のもので摂るしかない。
そこで着目されたのが高たんぱくな大豆とその加工食品でした。
その最たるもののひとつがお豆腐。
素材自体の味は淡白で調理のバリエーションが豊富。
もっと美味しいものを。
もっと美味しいものを。
もっと美味しいものを!!
工夫に工夫を重ねた豆腐料理の集大成が江戸時代に編まれた「豆腐百珍」だったのだと思います。
ということで(なにがだ?)、その豆腐百珍からこんな料理を作ってみました。
【材料】(1人分)
-調理時間:5分-
- 絹ごし豆腐:1/4丁
- 練辛子:適宜
- 吉野葛または片栗粉:6g(少量の水で溶いておきます)
[あんパート]
- 昆布出汁:100ml(カップ1/2)
- 濃口醤油:6g(小匙1)
- 酒:5g(小匙1)
- 味醂:6g(小匙1)
【作り方】
- 茹で上がり後に網杓子などで豆腐が掬えるサイズの鍋に豆腐が浸かる量の水(分量外)と塩ひとつまみ(分量外)を入れて強火にかけ沸騰させます。これに豆腐をそっと入れて約1分煮ます。豆腐を崩さないように網杓子(かす揚げなどでも可)で掬い器に盛ります。
- 1.と並行して[あんパート]を小鍋に入れてひと煮立ちさせ水で溶いた吉野葛または片栗粉を加えてとろみを付けます。これを1.の器に流し込みます。豆腐の上に練ガラ氏を載せればできあがり。
【一口メモ】
- はんなりした優しい味。濃い味に慣れた現代人の舌にはちょっと物足りなく感じるかもしれませんが食べ進めるうちになんだか手を合わせて拝みたくなるようなありがたみのある味わいです。
- 葛あんに練辛子を合わせるというアイデアが秀逸。きりっと味の引き締まった皿になっています。
- 湯豆腐は元々精進料理から生まれた料理ですのでかける餡もかつお出汁など動物性のものではなく昆布出汁を使いましょう。
- 名前に付いている「高津(こうづ)」は大阪の地名で、神社を中心に栄えた町です(大阪の台所と呼ばれる「黒門市場」の近くにあります)。江戸時代にはそこに数軒、湯豆腐屋がかたまっていたそうで、そのうちの一軒の名物料理がこの「あんかけ湯豆腐」だったとか。料理の名前はそこから取ったと豆腐百珍に書かれています。