北大路魯山人は明治から昭和にかけて活躍した文化人で、書画、陶芸、料理など幅広い分野でその名を知らした人です。
『美味しんぼ』に登場する主人公の怖い父親、海原雄山のモデルになった人物でもあります。
彼の雄山ばりの逸話は枚挙にいとまがなく、たとえばビールはキリンビールの小瓶と決めていたとか。
これは彼が酒に弱かったからではなく、最後の一口まで冷たさを保ったビールを楽しむためには小瓶の量が最適──だからだそうです。
うん、なんか雄山っぽい。
あるいは、風呂から上がって7秒後に冷えたビールが出ないと女中さんを怒鳴り散らしたとか。
なんか……、ますます雄山っぽい。
けど、僕が一番印象に残っている逸話はジンジャーエールの話ですね。
友人が自宅で小宴を開いていた時、彼はビールを持って現れ、「本物のジンジャーエールをごちそうしてやろう」と言って、ビールをボウルに入れて、生姜をすりおろし、氷砂糖を加えてその場でジンジャーエールを作り上げて振舞ったとか。
いや、人ん家で何やってんだよって、話ですが。
ただ、そのジンジャーエールを飲んだ友人は「ことのほか旨かった」と書き残しているそうなので、ちょっと飲んでみたいかも。
このジンジャーエールのように、世の中には"(実は家で作れるのに)お店で買ってくるもの"と思い込まれている料理や調味料がたくさんあります。
例えば、イマドキはお漬物が食べたければ"スーパーで買ってくる"の一択ですが、昔はどこの家庭でも漬物桶に漬け込んだ自家製の漬物が常備されていました。
そして、僕も魯山人のことを笑えないくらい変わったものをいろいろ作った経験があります。
例えばタバスコ(タバスコは登録商標なので正確には"ハラペーニョソース")。
汁が皮膚に付いたり目に入るとやけどをするので手袋とスキーのゴーグルで武装して作りました。
あるいは辛子明太子、〆鯖、ビーフジャーキーなどなど。
なんで、お店で買ってこずに自作したんだよと呆れられるものをいろいろ作ったな。
自作した一番の動機は"どうやって作るのかを知りたかったから"ということです。
完成品を買ってくるとそこはブラックボックスになってしまうので気になって仕方がなかったのです。
あとは"(お店で買ってきても良いけど)自分で作ることもできる"という自信を持ちたかったからかな。
けど、もちろん、お店で売っているものを軽視しているわけではありません。
やっぱり、その道のプロが作ったものには敵わないとリスペクトしています。
それは、ジャンクフードの代表選手みたいに言われる夜店の屋台料理も同じです。
夜店で食べる方が家で作るよりずっと美味しく感じられます。
お祭りの雰囲気による心理的効果(ワクワク感)。
家庭ではあり得ない高火力の機材。
複雑な味を実現できる業務用の調味料──その理由はいろいろ考えられますが、なんといっても一番は、お店のおじさんたちの熟達した技術でしょう。
だって、お祭りが開催されるたびに、朝から晩まで同じ料理を作り続けているのですから、その熟練度はハンパないのです。
過日、近所の八百屋でとうもろこしが2本で100円でした。
破格の値段に思わず衝動買い。
1本はコーンスープにしたのですが、もう1本は夏らしいお祭り気分を味わいたくて、焼きとうもろこしを作ってみました。
夜店の味には及ばないかもしれないけれど、やっぱり自分で料理してみるのって楽しいな。
【材料】(1人分)
-調理時間:13分-
- とうもろこし:1本
- バター:5g
[タレパート]
- 濃口醤油:9g(大さじ1/2)
- 味醂:6g(小さじ1)
- 砂糖:3g(小さじ1)
【作り方】
- 鍋にとうもろこしを茹でる湯(分量外。量はとうもろこしがひたひたに浸かるくらいでOK)を沸かします。待っている間にとうもろこしの皮を剥き、ひげをキッチンバサミで落とします。 ※皮を剥いてから湯を沸かし始めると段取りが悪いので、先に鍋を火にかけます。湯が煮立つまでの間に手早く皮とひげは取りましょう。
- 湯が沸いたらとうもろこしを入れて時々、転がしながら7分茹でます。[タレパート]を合わせてよく混ぜておきます。茹で上がり1分前になったらフライパンにバターを入れて鍋の隣で弱火にかけ溶かしておきます。 ※茹で上がってからバターを溶かし始めると段取りが悪いので、工程終わりを見越して先にフライパンを火にかけます。
- 2.のフライパンにトウモロコシを入れ中火にかけて、転がしながら薄く焼き色が付くまで焼きます。鍋肌から[タレパート]を流し入れてとうもろこしと絡めながら焼き、[タレパート]の水気がほぼなくなればできあがり。
【一口メモ】
- まさに屋台の味! とうもろこしの甘味にあまじょっぱいタレとバターの香りがたまりません。
- とうもろこしの皮を剥く前に茹でる湯を沸かし始める。茹でている最中に[タレパート]を合わせておく。茹で上がりが近づいたらバターを火にかけて溶かし始める。このレシピは段取りの良し悪しで調理時間が変わるポイントの目白押しです。常に先の工程を意識して、手際よく仕上げましょう。──屋台で客を待たせるわけにはいきませんからね。
- [タレパート]の配合は王道の屋台のジャンクな味に寄せていますが、もう少しおかずっぽく作るなら酢(できればバルサミコ酢)3g、マヨネーズ3gを加えてください。ぐっとコクが増します。あるいは仕上げにカレー粉を振ってエスニック料理風に仕立てるのも楽しいですよ。