映画の父と呼ばれるD・W・グリフィスは20世紀初頭、映画産業が黎明期だった頃の映画監督です。
彼は元々、舞台俳優だったのですが舞台を降りて監督業にまい進する彼に俳優仲間はしきりに舞台への復帰を誘ったとか。
「いつまでそんな子供の遊びみたいなことをやっているんだ。舞台に戻って来いよ、シェークスピアは良いぞ。人生の深みを表現できるのはやはり演劇だと思わないか」
当時の映画は"キワモノ"扱いする人も多く芸術性が高い文化とは言えませんでした。
けれどグリフィスはこう答えたといいます。
「いや映画はまだ若い文化なんだ。それでもいずれ映画は舞台演劇をも凌駕するものに進化する」と。
グリフィスの予見がいかに正しかったかはその後100年の映画の進歩を見れば火を見るよりも明らかです。
同様に漫画やアニメーションもかつて、黎明期には"子供向けの低俗なもの"というレッテルを貼られていました。
ヒステリックなPTA役員が校庭で手塚治虫の漫画を焚書(本を焼くこと)した──なんて事件もあったようです。
それが今では大人が夢中になる漫画やアニメーション作品が溢れていて、勇気や生きる指針をもらったという人も少なからずいます。
僕も大好きでよく楽しみますが近頃の漫画やアニメはホントにキャラクター造形が深く、世界観の作り込みが緻密で舌を巻くばかり。
明らかに僕が子供の頃に読んだり見たりしたものとは別物に化けたなぁと強く感じます。
同じような事象は料理の世界にもあります。
──たとえば缶詰。
日本初の缶詰は1871年(明治4年)に作られたいわしの油漬け缶だそうです。
当初は軍用食として利用されるのが主だったので一般庶民には縁の薄いものだったみたい。
その後も海外輸出用に手を広げていったり(逆に言うと国内ではあまり売れなかった)、関東大震災では保存食として脚光を浴びたりしたのですが、あくまでもそれしかないから食べる非常食扱い、食べ物としてはちょっと"キワモノ"的な存在だったようです。
時代は下って1970年。
大阪の万博では時代の最先端と謳われる物品が多く登場しました。
東洋陶器の温水洗浄便座"ウォシュレット"が初めてお披露目されたのも万博でした。
そんな物品の中に最新の缶詰もありまして、そのキャッチフレーズが「世界初の焼き鳥の缶詰」だったのです。
言わずと知れたホテイ食品の焼き鳥缶「ホテイのやきとり」の爆誕です。
学生の頃、その"ホテイのやきとり"を初めて食べた僕は思いました。
「確かに美味しい。けど、量は少なめで値段もちょっとお高め。何より焼き鳥が食べたきゃ、普通に焼き鳥屋で食べた方が良いに決まってる。これは早晩、消える商品なんじゃないかな」
……正直、舐めていたと今では猛省しています。
2025年現在、ホテイフーズから販売されている焼き鳥缶の種類は21種類。
しかも、和食に拘らず国際色も豊かなラインナップ。
さらに2019年にはJAXAの宇宙日本食の認証まで取っちゃったんですって。
凄すぎるだろ(笑)
過日、白トリュフ入りの贅沢な焼き鳥缶でオシャレなパスタを作りながらプロジェクトXさながらの"ホテイのやきとり"が歩んできた道のりに思いを馳せておりました。
どんな文化も黎明期には冷淡な目で見られたり、揶揄われたりしがち。
それでもはるか先に見果てぬ夢があると信じて1歩、1歩前進していけば──いつか誰も思いもよらなかった見事な果実を実らせることもあるものなんですね。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- スパゲティ:100g
- ホテイのやきとり(白トリュフ味):1缶
- バター:10g
- 塩、ブラックペッパー:少々
- [茹で汁パート]
- 水:600ml(カップ3)
- 塩:6g(小さじ1)
【作り方】
- [茹で汁パート]を鍋に入れて強火にかけ沸騰させます。これにスパゲティを加えてパッケージに記載された茹で時間?1分、茹でます。茹で上がったらざるに上げて湯切りします。 ※茹で時間を短めにする理由は、湯切りをしたあともパスタは余熱で火が入っていくので「いただきます」をする頃にはおおよそ、パッケージに記載された茹で時間分、茹でた状態になるのです。
- 1.の終了1分前になったらフライパンにバターを入れて中火にかけ溶かします。溶けきったら火を止めて待機しておきます。
- 2.のフライパンにホテイのやきとり(白トリュフ味)を汁ごと加えて中火にかけます。これにスパゲティを加えてトングなどでよく絡めます。味を見て物足りなければ塩、ブラックペッパーで味を調えて、できあがりです。
【一口メモ】
- トリュフの風味が利いていてなんだか高級イタリアンを食べている気分に浸れます。惣菜缶はここまで進化したのかと目を見張るばかりですね。
- 副菜も用意したい方は卵、じゃがいも、チーズなどが白トリュフに合うのでおすすめです。スクランブルエッグ、ポテトサラダ、フライドポテト、パルミジャーノ・レッジャーノやフォンティーナなどのチーズを小さく切って添えるだけでも副菜になりますよ。
- 「これはお酒と合わせないともったいない!」という方にはワインがおすすめ。特にネッビオーロ種の熟成した赤ワインや、シャルドネ種の白ワインなどが白トリュフにはよく合います。