2024年のNHKの連続テレビ小説(後期)は「おむすび」というドラマでした。
僕は視聴していないのですが、ネットであらすじを調べると『平成ギャルとして育った主人公の米田結(よねだゆい)が栄養士となり、食と知識、コミュ力を通じて人々の心と未来を結んでいくオリジナル作品』だそうです。
橋本環奈さんが演じた米田結のモデルになったのは、香川綾さん、なのだそうです。
多くの人は「誰、その人?」と訊き返しそうですが、逆に香川綾さんを知っている僕としては「なんで、彼女をモデルにしたヒロインが平成ギャルなんだよ」と笑ってしまいました。
香川綾博士は戦前から戦後に活躍した医学博士で、日本の栄養学の礎を築いた方、医学の一分野だった栄養学を独立した学問として確立した方です。
彼女の功績はいろいろありますが、身近なところでは僕らが毎日食べている家庭料理に革命を起こしたことが挙げられます。
彼女は戦前から「日本人の食事は塩分過多である」と警鐘を鳴らしていました。
そして、その原因は家庭料理の調理法にあると指摘していました。
当時の家庭料理の味付けは勘と経験に基づく目分量。
味見をしながら調味料を追い足して、ついつい濃い味の料理になってしまうのが問題だと見抜いていたんですね。
この問題を解決するため、彼女は調味料を"計量する"という概念を提唱しました。
そうすれば、誰が作っても同じ味の料理が作れるという、今の僕らから見れば、当たり前過ぎる答えを早々に導き出したのは慧眼だったと言うべきでしょう。
この持論を広めるために、彼女は私費を投じて和洋中の料理人を自宅に招きました。
調味料をたっぷり用意しておいて、彼らに料理を作ってもらったのですが、都度、調理前と調理後で、調味料の分量を計量し、その差分から作った料理に使われた調味料の分量を導き出しました。
なんか、やっていることが理系っぽいですね。
この"料理実験"の結果から彼女は多くの料理に共通する調味料の"分量"が存在することを発見します。
その分量とは5ml、10ml、15ml。
つまりこの分量を計る道具を作って、それを使えば誰でも同じ味付けの料理が作れると結論付けたのです。
そして考案されたのが大さじ、小さじの2種類がある"計量スプーン"でした。
大さじは15ml、小さじは5mlの分量が計れます。
10mlの調味料が必要な場合は小さじで2杯を計れば良いというわけです。
更にもっと大きな分量を計る道具として200mlの計量カップを作り、50mlごとに目盛を付けました。
こうして日本初の計量スプーン、計量カップが誕生したのです。
彼女がこれらを考案したのは戦後すぐくらいのことらしいのですが、一般家庭に浸透したのは昭和40年代になってから──
「お義母さん、このスプーン、すごく便利そうですよ。これを使えば誰でも同じ味付けができるんですって」
「あなた、そんな道具を欲しがるから料理が上達しないのよ。料理というものはね、毎日作っていれば目分量でも同じ味が出せるようになるものなの。腕を磨こうともせず、横着なことをしてどうしますか。そんな道具は邪道よ」
計量スプーンがなかなか普及しなかった理由は、もしかしたら、お家の中でこんな会話がされていたからじゃないかしら──なんて意地の悪い想像を僕はしたりしています。
計量スプーンを横着だというのなら、COOK-DOみたいなレトルトの合わせ調味料を使って、再び調味料の分量を計らなくなった僕たちはなんなんでしょうね。
昭和のお姑さんが知ったら卒倒しそうです(笑)
「これ一本で味が決まる!」的な合わせ調味料の恩恵にあずかって、つい忘れがちですが、例えば今日の料理なども、お家にある調味料をきちんと計って合わせれば、ピタリと同じ味に作れちゃいます。
お助け調味料を買う出費も抑えられて家計が助かりますので、ぜひお試しくださいな。
【材料】(1人分)
-調理時間:10分-
- なす(中サイズ):1本
- 豚バラスライス:80g
- ピーマン:1個
- にんにく:ひとかけ分
- 豆板醤:6g(小さじ1)
- サラダ油:12g(大さじ1)
[調味料パート]
- 味噌:18g(大さじ1)
- 酒:15g(大さじ1)
- 砂糖:4.5g(大さじ1/2)
【作り方】
- なすはがくを取り、横半分に切って更に六つ割りにします。ピーマンはヘタを取って縦半分に切り、白いワタと種を取ります。これを細切りにします。豚肉は1cm幅の小口切りにします。[調味料パート]を合わせてよく混ぜておきます。
- 中華鍋かフライパンにサラダ油を入れて強火にかけます。うっすら煙が立つくらいに温まったらなすを加えて油を吸わせながら1分炒めます。これを一旦、皿に取ります。
- 2.の中華鍋を洗わずにそのまま中火にかけます。これに豆板醤とにんにくを加えます。香りが立ってきたら豚肉を加えて色が変わるまで炒めます。更にピーマンを加えて30秒炒めます。 ※ピーマンはすぐに火が通るのでシャキシャキ感を失わないよう炒め時間は短めにします。
- 3.になすを戻して[調味料パート]を鍋肌から流し込むように加えます。[調味料パート]を絡めるようにしながら水気がほぼなくなるまで炒めればできあがり。 ※鍋肌から流し込むことで材料と混ざる前に[調味料パート]に適度な焦げができて料理の旨味に加わります。
【一口メモ】
- 醤油+オイスターソースのチンジャオロース的な料理も美味しいけれど、味噌炒めも捨てがたい。醤油系よりコクがあって砂糖の甘味とよく合うのです。
- 味噌炒めの基本配合は味噌:酒:砂糖=2:2:1で合わせること。これを覚えておくと炒め物への応用範囲がぐっと広がりますよ。
- なすは油と好相性の食材なので調理する場合は最初に素揚げまたは揚げ焼きにするのがセオリーです。ちょっと面倒ですが先になすだけたっぷりの油で炒めて、その後、残りの材料を炒めてください。
- [調味料パート]だけなら純和風の配合なのですが、そこに豆板醤を加えることでちょっと中華料理っぽくアレンジしています。辛いのが苦手な方は豆板醤を抜いて代わりに[調味料パート]にオイスターソース6g(小さじ1)を加えるのもありです。