在庫を切らしてしまっていたから──
徴兵のせいで──
そして、ヒマだったから──
なんていきなり言われてもなんの話か分かりませんよね。
順を追って説明します。
料理の定番付け合わせの中には今では当たり前すぎてなんでその組み合わせになったのかわからなくなっているものが少なからずあります。
例えばカレーライスに福神漬け。
この取り合わせが生まれたのはいつもの付け合わせの在庫が切れていたから。
たまたまそこにあった福神漬けをピンチヒッターに使ったのが始まりなのだそうです。
明治時代、外国航路で出されるカレーライスの付け合わせは東南アジアで作られるチャツネを添えるのが定番でした。
ところがそのチャツネを切らしちゃった。
場所は外洋を行く船の上。
ちょっと市場まで行って買ってくる──わけにもいかずたまたま在庫があった福神漬けを付けたのだとか。
いや、そもそもカレーライスに付け合わせは必須なのか? って気もしますが明治人にとってはそれがないとおさまりが悪かったのかな。
とまれ急場しのぎで出した福神漬けはたいそう評判が良くてそのまま定着しちゃったんですって。
店でトンカツを食べる時は千切りのキャベツが添えられていないとなんとも落ち着きが悪いですがこの付け合わせが生まれたのもやむにやまれぬ事情がありました。
元々、明治、大正期は野菜を生で食べる習慣はなく洋食屋で出されるトンカツの付け合わせは温野菜が定番。
茹でたジャガイモ、ポテトフライ、茹でたキャベツなどでした。
ところがその温野菜を担当していたコックが戦争に取られちゃった。
ただでさえ忙しくて常に人手不足な店では別のコックに野菜を茹でさせるヒマもない。
そこでキャベツを生のままたっぷり千切りにしておいてそれを付けて出したのが始まりだとか。
意外と評判は悪くなくてこれもそのまま定着しちゃったらしい。
まさに案ずるより産むが易しを地で行くようなエピソードですね。
ラーメンは明治時代、横浜の中華街に登場したのが最初らしいですが肉食に慣れていない日本人の舌には脂っこい麺料理のウケはイマイチだったらしい。
今のスタイルのラーメンが生まれたのは浅草。
来々軒という店で日本人好みの醤油ベースのスープに中華麺という組み合わせの料理が評判を呼んだのが最初だったとか。
その時の具材は叉焼、メンマ、葱。
いずれも作り置きしておいてできあがったラーメンに仕上げとして載せればすぐに出せるスピード重視の工夫が凝らされたトッピングです。
では定番のもやしが載せられるようになったのはいつ頃からでしょう?
他の具材と違ってもやしは生のまま載せるというわけにはいきません。
炒めるにしろ茹でるにしろ「火を通す」というひと手間が必要になり時間を食います。
けど、この「時間を食う」というポイントこそがもやしがラーメンの定番具材に加わった理由だったらしい。
時は昭和二十年台前半。
場所は札幌。
味噌ラーメンの創始者、大宮守人さんはラーメンのトッピングについて考えていました。
ラーメンのトッピングは作り置きできるものばかりで下準備はいらない。
だから麺を茹で始めたら3、4分は──することがなくてヒマになる。
このヒマな時間にもう1品、具材を作ることはできないだろうか。
彼が考えたのは野菜炒め。
ラーメンを待つ客の前で威勢よく鍋を振ればそれを見物する彼らもヒマを持て余すことがないだろうし味への期待感も高まる。
最初に彼が目を付けた野菜は玉ねぎだったのですが材料費がかさむ上に季節によって味が変わってしまう。
最終的に行きついたのが安価なもやしだったのだそうです。
今では定番すぎてなんか悠久の昔からそこにあったような気がする付け合わせたち。
けど、そのひとつひとつにはちゃんと誕生秘話があってその陰には料理人の懊悩と努力と工夫が見え隠れしているものらしいです。
過日、冷蔵庫にたっぷりもやしが残っていたのでランチタイムにこんな料理を作ってみました。
で、スープを煮こむ間ヒマだったのでスマホでそんな歴史の断片を垣間見ていた次第です。
【材料】(1人分)
-調理時間:20分-
- 袋入りラーメン(豚骨):1袋
- 豚バラスライス:70g(3枚くらい)
- 塩、ブラックペッパー:少々
- キャベツ:40g
- もやし:100g(半袋)
- ごま油:4g(小匙1)
- おろしにんにく:ひとかけ分
- 水(スープ用):ラーメンに記載の量の半量
- 水(麺茹で用):適宜
【作り方】
- 豚バラは4、5等分します。これを冷たいフライパンに入れ塩、ブラックペッパー、ごま油を加えてよくまぶします。豚バラを重ならないように並べてごく弱火にかけ6分焼きます。ひっくり返して更に2分焼きます。
- 1.をやっている間にキャベツを小さめのざく切りにします。1.が焼きあがったら水(スープ用)を加えて中火にかけてひと煮立ちさせます。これにキャベツ、もやしを加えて蓋をし、弱めの中火で5分茹でます。並行して水(麺茹で用)を鍋に入れて強火にかけひと煮立ちさせます。これに麺を入れて規定時間ー30秒茹でます。
- 2.のフライパンの火を止めて粉末スープの半量、おろしにんにくを加えてさっと混ぜます。
- 茹で上がった麺を湯切りして丼に移し3.をかければできあがり。
【一口メモ】
- ラーメンにもやしがちまっと載っているとなんかいらいない子みたいに扱いがちですがこれだけドカッと積んであれば存在感が凄い。それだけじゃなくて食べ応えも十分。あきらかにもやしをメインの具材として楽しめる一杯です。
- もやしは低カロリーな上、各種ビタミン、疲労回復の効果があるアスパラギン酸などが含まれています。それにお財布にも優しいアイテムなのです。
- とはいえもやしに含まれていない栄養素も多くありますのでできれば冷蔵庫のあり合わせ野菜を更に加えて栄養バランスの良いラーメンを目指してくださいな。
- インスタントラーメンのスープは全部飲むと塩分過多になりますのでこのレシピでは最初から半量に減らして作る手順にしてあります。残った粉末スープは炒飯の味付けや中華炒め全般に使えますので別の料理に活用してください。
- お好みでスープに小口切りにした鷹の爪を加えて煮込むとホットな一杯を楽しむこともできますよ。