グリム童話に「おいしいおかゆ」というお話があります。
僕が生まれて初めて買ってもらった絵本の巻末におまけのように載っていた童話なのですがけっこうお気に入りでした。
母娘二人で暮らしている貧しい家庭が舞台。
娘は森で老婆から不思議なおなべをもらいます。
「おなべやぐつぐつ」というと何も入っていない鍋におかゆが炊かれ、「おなべやおしまい」というとおかゆが炊かれるのが止まるという便利なアイテム。
ある時、娘が街に用事に行っている間にお母さんが「おなべやぐつぐつ」と言いました。
いつものように鍋にはおかゆが炊かれ出したのですがお母さんは鍋の止め方を知りませんでした。
もうお腹いっぱいと思ってもおかゆは炊かれ続けます。
やがて台所がおかゆでいっぱいになり、道にあふれ出し、それでもおなべはおかゆを炊き続けました。
で、娘が街から戻ってみると村中がおかゆで溢れていてびっくり。
「お鍋やおしまい」
娘がそういうとようやくおかゆは止まりました。
今でもその村に行くとおかゆを食べながらじゃないと道も歩けないんですって。
おしまい。
熱々のおかゆが村中にあふれて食べ放題ってちょっと憧れてしまうのですが(そうか?)、冷静に考えればうんざりする状況ですよね。
江戸末期、文化文政年間はまぐろの当たり年で豊漁が何年も続いたそうです。
「こんなに獲れても食いきれねぇや」
村にあふれるおかゆを見るような目で江戸の町の人たちは大漁のまぐろを見てため息をついたとかつかなかったとか。
冷蔵庫のない時代ですから日持ちもしません。
それでも少しでも長く食べられるようにと考案されたのがヅケという技法。
醤油をベースにしたタレに刺身を漬け込んで傷むのを抑える方法ですね。
童話のように「おなべやおしまい」とまではいかないけれどそれなりに有効な手段だったので、あっという間に江戸前の寿司屋の間でヅケは広がり評判になりました。
冷蔵庫が各家庭にある21世紀の今ではあまり必要のない技法なのですが普通の刺身とはまた違った味わいがある──ということで今でも品書きにヅケが載っているお寿司屋さんは多くあります。
週末に買っておいたぶりのサクを食べそびれてしまい、ちょっと鮮度が気になったので仕事に出かける前にヅケにしておいて夕飯にこんな丼を作ってみました。
【材料】(1人分)
-調理時間:7分-
- ご飯:1膳分
- ぶりのサク:100g
- 薬味:大葉、ごま、刻み海苔、刻み葱など適宜
[漬け汁パート]
- 濃口醤油:27g(大匙1.5)
- 味醂:12g(小匙2)
- 酒:10g(小匙2)
【作り方】
- 耐熱皿に味醂、酒を入れて電子レンジの500ワットで30秒チンします。そのまま放置して粗熱を取り濃口醤油を加えます。
- 1.をやっている間にぶりのサクを7mm厚に切ります。これをタッパに並べて(重なってもOK)[漬け汁パート]をかけ上からラップを圧着して冷蔵庫で半日漬け込みます。
- 熱々のご飯に[漬け汁パート]を大匙1ほどかけてざっくりと混ぜます。その上にぶりの漬けを載せ、お好みの薬味をトッピングすればできあがり。
【一口メモ】
- タレに漬け込んだ刺し身はまた別格の味わい。脂の乗ったぶり刺しには醤油系のタレがよく合います。
- 工程1.で酒、味醂をレンチンするとアルコール分が飛んで酒臭さが抜けます。面倒がらずにぜひひと手間かけてくださいな。
- 薬味は味の濃い漬け丼の良いアクセントになります。わざわざ買ってくるほどでもないけれど。常備していれば他の料理でもいろいろ使えるので買い置きしていて損はないアイテムですよ。
- 同じレシピでマグロやサーモンを使っても美味しくできます。