ビール、日本酒、ワインにウィスキー。
お酒もいろいろあるけれどどれが一番好き?
なんて話題が時たま酒飲みの間で交わされます。
ま、訊くまでもなく普段飲み屋で顔を合わせる常連同士なら何を注文しているかを見ていればだいたいわかるんですけどね。
ちなみに僕がいっとう好きなのは日本酒。
もちろん他の酒もわけへだてなく飲みますが「お飲み物はどうなさいますか?」と改めてお店の人に訊かれれば迷わず「日本酒を熱燗で」と答えます。
この熱燗というのも拘りポイントで僕は春夏秋冬を問わず熱燗派。
夏に縁台で夕涼みしながらうんと熱くした日本酒を飲むのが長年の夢だったりします。
「見てるこっちまで汗かきそうやわ」
暑苦しいやっちゃな──なんて常連仲間にはよく笑われましたっけ。
ま、日本酒好きの中でも僕の嗜好は少数派で真冬には熱燗、暑い夏の盛りはキリッと冷えた冷酒が欲しくなるという人が多数派でしょう。
お酒に限らず季節に応じて気温と真逆のものを食べたり飲んだりして火照った体を冷やしたり凍えた体を温めたくなるのは人情。
だからこそ人は真夏にはかき氷を食べてキンキンに冷えたビールを飲み、真冬には熱々のおでんや鍋をつつくのです。
お寿司だって冬は温かいやつが食べたい。
そう考えた人がいたんでしょうね。
関西には蒸篭で蒸して温かくしたちらし寿司を真冬に戴く蒸し寿司の文化があります。
その発祥時期はつまびらかにはされていませんがおよそ幕末の頃ではないかと言われています。
関東の人がそれを聞いたら「いや、ちらし寿司を蒸しちゃったら上に載ってる刺身がまずくならない?」なんて言いそうですがそれはちょっとした誤解。
そもそも関東と関西ではちらし寿司の具材が違うのです。
関東のちらし寿司は酢飯の上に生魚や錦糸卵などの具を並べたもの──海鮮丼に近いスタイルです。
それに対して関西のちらし寿司は酢飯の上に錦糸卵や海苔を散らし、小さく切った高野豆腐や干瓢、海老などを載せたもの。
その海老も生ではなく茹でた海老を使います。
そもそも刺身を載せる文化がなかったので「寿司を蒸す」なんて発想に至ったのでしょう。
昔は冬になると京都のあちこちで蒸し寿司を出すお店があって冬の風物詩と言われていたようですが近年はめっきり減ったとか。
ちょっと寂しい感じ。
その代わりというわけでもないのでしょうが冷凍技術の発展とともに冷凍のお寿司をお取り寄せできるそう。
電子レンジでチンすればあっという間に蒸し寿司のできあがり……
なんか風情に欠ける気もしますがこれも時代の流れというやつですかね。
過日、母の傘寿のお祝いで一泊二日の京都旅行に行ってきたのですが京都の雰囲気にすっかりあてられてしまってむしょうに蒸し寿司が食べたくなりました。
2024年の3月は春が遅くて寒い日が続いていたから殊更恋しくなったのかな。
ということでなんということのない平日のランチタイム。
冷蔵庫のあり合わせを使って贅沢にも蒸し寿司をこしらえてみました。
【材料】(1人分)
-調理時間:35分-
- ご飯:1膳分
- (市販の)すし酢:15g(大匙1)
- むき海老:数尾
- 卵:1個
- 旨煮の具材:椎茸、人参、蓮根など
[旨煮の煮汁パート]
- 出し汁(昆布または鰹出汁):60g(80ml)
- 薄口醤油:18g(大匙1)
- 味醂:9g(大匙1/2)
- 砂糖:9g(大匙1)
[卵の味付けパート]
- 濃口醤油または白だし:3g(小匙1)
- 砂糖:3g(小匙1)
[海老の塩ゆでパート]
- 水:60g(60ml)
- 塩:2g(小匙1/3)
【作り方】
- [旨煮の煮汁パート]を小鍋に合わせて中火にかけひと煮立ちさせます。待っている間に旨煮の具材を小さめに切ります。[旨煮の煮汁パート]が煮立ったら具材を加えて弱火にし、10分煮込みます。火を止めて蓋を取り、煮汁を余熱で煮詰めながら煮含めます。
- 1.と並行してご飯に寿司酢を加えて切るように混ぜます。
- 1.と並行して卵に[卵の味付けパート]を加えてよく溶きます。フライパンにサラダ油少々(分量外)を入れて強火にかけて煙が立つまで熱します。これを濡れ布巾に載せてじゅっと言わせて余分な熱を取ります。再度フライパンを中火にかけて卵液を流し込み薄焼き卵を作ります。これをまな板の上に広げて粗熱を取ります。冷めたらごく細切りにして錦糸卵を作ります。
- [海老の塩ゆでパート]を小鍋に合わせて中火にかけひと煮立ちさせます。これにむき海老を加えて3分煮ます。煮あがったらざるに揚げます。 ※野菜の旨煮と卵は粗熱を取るのに少しヒマがかかりますので海老の塩ゆでをあとに回して粗熱を取っている間に済ませましょう。
- 1.の粗熱が取れたらざるで煮汁を濾して2.に混ぜ込みます。さらに海老の中で見栄えの良い1尾を残して混ぜ込みます。
- 5.を茶碗蒸し等の器に詰めます。その上に錦糸卵をたっぷり載せ海老を中央に盛り付けます。これを蒸気が上がった蒸し器で10分蒸せばできあがり。
【一口メモ】
- お寿司は冷たいものという固定観念がありがちですが実は寿司飯は温かい方が酢の香りが立って旨いのです。甘辛く煮付けた野菜の旨煮も元々煮物ですから温かい方が美味しいのは自明。まさに冬のご馳走寿司って感じです。
- 蒸すことが前提のお寿司なので刺身などの生魚は具材に向きません。けどどうしても欲しいなという方は蒸し上げてから後載せすれば美味しく食べられますよ。
- 錦糸卵は心持ち甘めに作るのがおススメ。その方が旨煮との味のバランスが良いと思います。
- 具材は冷蔵庫の在庫と相談しながらなんでもありですが色目が美しいことも重要な要素ですのでさやえんどうなどの緑色のものを加えるとぐっと華やかになります。具材は全部寿司飯に混ぜ込むのではなく形の良いものを見繕って寿司飯の上に盛り付けるのも見栄えを良くするコツです。
- 後載せ具材として大葉の千切りや刻み海苔を載せると風味が複雑になってまた楽しいですよ。