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厨房日誌

ショットバーの夜

去年の秋口、関西の飲み仲間と川崎で鯨飲。

2軒目に連れて行ってもらったショットバーが良い感じだったのです。落ち着いていて静か。俗に「隠れ家的」と呼ばれそうな雰囲気の店でした。

で、別日、その少し前に長女は居酒屋デビューを果たしたばかりだったのですが今度はショットバーデビューを果たそうという話になって、かの店を再訪しました。

今まで娘がお友達と行ったことがあるのは客層が若いガヤガヤと賑やかな店ばかり。

あまりの違いに戸惑っている様子でしたが生まれて初めての本物のカクテルはお気に召した様子でした。更にお値段を聞いてドン引きしていましたが(^^;

ただね、こういうお店で出される酒を材料の原価で考えてはいけないと思うのです。それって、作家に「その原稿用紙、100枚綴で千円くらいですよね」と言っているようなものですよ。

店主は仕入れた酒を最良の状態で維持管理するために店の温度、湿度を24時間管理しています。細心の注意と集中力で最高のカクテルを作り上げるのは素人には無理。店主がバーテンダーとして何十年も修行を積んだ経験あってのことなのです。

ピカソのエピソードにこんなのがあります。

ある時、彼が道を歩いていると1人の女性が寄ってきて「あなたのファンなんです。この紙に何か絵を描いてもらえませんか」と頼みました。

ピカソはサラサラっと30秒ほどで絵を描いて「この絵の値段は100万ドルです」と言ったとか。女性はちょっと非難がましい目つきになって「だって、あなたはその絵を描くのに30秒くらいしかかけてないじゃないですか」と言いました。するとピカソはこう答えたそうです。

「いえ、30年と30秒かかっています」

それはそうですよね。絵描きになろうと思い立った瞬間にいきなり名画が描けるわけじゃありません。何年も何十年も絵ばかり描いて研鑽してようやく人に認められるようになるのです。

長女は「自分は味音痴だ」と、ちょくちょく申します。それに対して僕は「君は味音痴なんかじゃないよ。ちゃんと美味しいものとそうでないものの区別をつけることができている。君は単に味の経験値が少ないだけだ」と答えています。

確かにプロの手による料理は時に高額です。けれど、舌の上で経験したその美味の思い出はこの先何十年も生涯の宝に必ずなります。それを考えたら惜しむほどの値段ではないと僕は思うのです。

2019/10/14 Mon.

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