タイトルに「サーブの極意」って書いてあるけど、サーブってなんなのさ?って、あなたは思われたかもしれませんね。
サーブは動詞で日本語では「供する」と訳します。要は「料理を提供する」といったほどの意味です。
今日は、同じ料理でも料理の出し方一つで食べる人の食欲は俄然変わって来るんだよという話を書こうと思います。
フードファイターの極意
過日、著名なフードファイター(大食い選手権の猛者)がバイキング料理の攻略法を指南するネット記事を見かけました。曰く、
- 一人では行かない。複数人で行って会話を楽しみながら食事をする。
- 気合を入れて食うぞと気張らず、食事を楽しむ気分で出かける。
- 皿に取るのはごく軽めに。なくなったらまたごく軽めに追加する。
これを心がけると存外にたくさん食べられるのだそうです。
ま、食べ放題だからといって必要以上に食べることの是非を問うのはおいておいて、これは一般の料理にも言えることだと思います。
味付けの極意
例えば味付け。
ひとくち食べて「美味しい!!」と思った料理はたいてい失敗しています。そういう料理は二口、三口食べるごとに飽きてきて皿の料理がなくなる頃には「もういいや」と思うようになっているものなのです。
逆に一口目が「物足りない」と思う料理はもう一口、あと一口と箸が進んで皿がきれいになった頃には「もうちょっと食べたかったな」と思うものなのです。
特に温かい料理の場合は食べている間も水分が蒸発して味は濃くなっていきますので、料理人はそこまで計算に入れて料理を供する必要があります。
ドカ盛りの危うさ
分量にしてもドカッと大盛りなんてのは体育会系の学生ならまだしも、いい年をしたおっさんは見ただけで胃袋が縮んでお腹いっぱいになってしまいます。
これって、気のせいではなく視覚から入ってきた情報が満腹中枢に働きかけて、「今からこれだけの分量を食べるから覚悟しな」と言い付けるらしいんですよね。
なので、満腹中枢はいきなり「ごっつぁんです」状態になるという。
フレンチの極意
フレンチのコース料理の分量が少ないと揶揄されることがしばしばありますが、あれも最後まで食べればワンプレート料理分以上には供されていて十分満腹になる量なのです。
けど、ちょっとずつ、ちょっとずつ出されるので負担を感じずデザートを食べる頃には「もうちょっと食べたかったな」、「また食べに来よう」という気分にさせてくれるんです。
台湾料理/スペイン料理の極意
台湾料理の思想にも食巧不食飽(飽きずに美味しく食べさせる)というのがあって、屋台料理などの椀は敢えて小ぶりだったりします。
スペイン料理のタパス(小皿料理)にも同じ思想が流れている気がします。
洋の東西を問わず長い食文化の歴史を通して、「料理は小盛りでちょっと物足りないくらいに出すほうが楽しく食べられる」ということに料理人達は気付いているようです。
猪口の魔力
省みて日本の食文化はどうでしょう。
元々、この国は貧しくて一汁一菜の粗食を通してきたので却って山盛りの料理に憧れていたフシがあります。
ボリュームばかりがウリの店の宴会で、店を出る時には大量の食べ残しが皿に残ってるなんていう光景を少なからず僕も見たことがあります。もったいないなぁ。
ただ、酒器に関しては見事にこの思想を体現しているものがあります。それは『猪口』。あれは魔法の酒器です。
一口、二口でくいっと空く。とくとくと得利から次いで、またくいっと空ける。
とくとくとく、くいっ、とくとくとく、くいっ、とくとくとく、くいっ、とくとくとく、くいっ、とくとくとく、くいっ……。
あっという間に得利は一本空き、二本空き、五本、十本(をい)。
ともかくいっくらでも呑めてしまう気にさせられる魔物なのです。もしも同じ量をジョッキに入れて持ってこられたら半分も飲めないんじゃないかな。
サーブの極意
我々が普段、お店で供される料理も、ただボリュームの多さをウリにするのではなく、ちょっとは徳利の思想を見習えば良いのになと思っちゃいます。
料理も酒も敢えて少なめに供する。味も心持ち控えめにする。
そうすることで食事は最後の一口まで楽しめる。これは長い歴史を通して先人が教えてくれた万国共通の知恵だと思います。
あなたも家族に夕飯を供する時はほんの少し味を控えて、ほんの少しだけ少な目の小皿料理を並べてみてはいかがでしょう。
で、「もうちょっと」と言われたら箸休めかデザート的な隠し球を冷蔵庫から出してくるなんて演出をしてみると面白いかも。
あ、隠し球は大きめの鉢に入れて、お腹と相談しながら欲しいだけ取ってね。と、供するのがコツです。
2019/10/15 Tue.