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厨房日誌

レシピを見る意義


ネットの掲示板で「奥さんがマニュアル本通りの料理しか作らなくてつまらない。君も10年選手の主婦のプロなのだから何も見なくても冷蔵庫の中にあるもので画家が思いのままにキャンバスに絵を描くように料理が作れないものか」というご主人の愚痴を見かけました。

付いたコメントは投稿主さんの期待に相反して同情票は皆無。フルボッコに遭っていましたね。

曰く、

「プロと言うからには奥様に報酬を支払っているんですよね」

「料理本を見ずにオリジナルを混ぜるとろくなことにならないぞ」

「それでまずいのなら話は別だけど旨いのなら文句を言う意味がわかりません」

などなど、とどのつまりは「お前が作れよ」のオンパレードでした。

推察するに、この投稿主さんはおそらくほとんど料理をしたことのない人で、料理に対していくつか思い違いをされているんじゃないかなと思いました。

ちょっと面白い題材だなと思ったので、投稿主さんの誤解を読み解いてみたいと思います。

レシピを見る意義

当たり前のことなのですが、プロもレシピを見ます。

ただ、毎日毎日同じ皿を何十皿も作っているから暗記しているだけ。

そのレシピに沿って正確に料理を再現します。間違っても店の厨房で思いのままに料理などしません。

だって、料理は店の顔だから。その味を楽しみにしている客をがっかりさせるようなことができるわけがありません。

もし、店のコックが勝手にオリジナルを混ぜて料理を作ったらシェフの逆鱗に触れて店を叩き出されるのがオチでしょう。

目分量のあやうさ

この投稿主さんは「おふくろの味」にこだわりがあるようなことを書かれていました。

おそらくは内心「僕らの母の世代、祖母の世代はみんな目分量でちゃんと料理を作っていたでしょ」と思っているのじゃないかな。

だから、計量スプーンやキッチンスケールでちまちま分量を計る奥様の姿を見て、料理スキルが母たちの世代より劣っているように思えて歯がゆいのでしょう。

確かに計量カップやスプーンが考案されたのは戦後のことで、それが家庭に浸透したのは昭和40~50年台。

それまでの主婦は目分量で料理を作る人がほとんどだったと思います。

けどね、戦前戦後の頃の家族構成は今よりずっと人数が多かったんですよ(サザエさん一家の家族構成をイメージするとわかりやすいです)。

作る料理の量もずっと多かった。だから、多少調味料の分量がぶれても味への影響は少なかったのです。

この辺の話はメインのブログ「味付けの呪いを祓う① 脱・目分量のススメ」に詳しく書いてあるのでお読みくださいな。

核家族化が進み、1度に2、3人分の料理しか作らなくなった昨今、調味料の計量は重要な意味を持ちます。

たとえば、僕は和食1人前の調味料の量は小匙1(醤油、味醂なら6g、酒なら5g、砂糖なら3g)が軸になると思っています(あくまで関西人の舌の感覚ですが)。

1人暮らしの人がこれを基準に調理をする場合、調味料が1g狂うと味が大きく変わっちゃいます。

1人前の料理にとって、醤油6g7gは大違いなのです。

だから孤食も当たり前なイマドキの家庭料理で目分量はNG。正確に調味料を計る必要があるのです。

キッチンタイマーの役割

この投稿主さんは奥様がキッチンタイマーで時間を計るのもお気に召さないらしい。

「そんな物使わなくても、鍋を見て料理の色や香りの変化で仕上がりを判断できないのか」と言いたいらしいです。

あなたはパスタの店やラーメン屋に行ったことがありませんか? と訊きたくなりますね。

あの種の店ではまずキッチンタイマーを使います。店によってはいくつものキッチンタイマーが紐で吊るされていたりもします。

なぜそうするかと言うと同時並行で複数の皿を作らなければならないので鍋をじっと見るなんてヒマなことはやってられないからです。

店の主人は仕上がる少し前の時間に合わせてタイマーを鳴らし、料理の状態を見て仕上がりを判断しているのです。

この投稿主さんの思い違いはキッチンタイマーを時間を計る道具だと思っているところ。

キッチンタイマーの本来の役割は調理工程を見張ること。鍋に付きっ切りでいなくても火が入り過ぎないよう料理人にアラームを鳴らして調理工程の終わりを報せてくれることなのです。

投稿主さんがもう一度、奥様をよく観察してみれば気づくはずです。

キッチンタイマーを仕掛けたあと、奥様は鍋から離れて他の料理のこしらえに入っていませんか? と言いたいな。

晩御飯の栄養学

この投稿主さんは料理の良し悪しは味によって決まると思われているようです。

まあ、それは記事にコメントを書かれた人達もそう思っている方が多い印象でした。

けどね、食事の本来の目的は栄養学に根ざさねばならないと僕は思うのです。

いくら美味しく感じても身体に障るほど味の濃い料理は摂るべきではありません。

ましてや、それが毎日、家族に供する料理なら気を配って当たり前です。

そういう意味で、大昔のお母さんが目分量で済んでいた理由はもう1つあります。

昔はそもそも食事が粗末で品数も少なかったから塩分などを過剰に摂るリスクが少なかったのです。

それに比してイマドキは、「おかずは3品以上ないと寂しい。こんなの晩御飯とは言えない」なんてのたまうご亭主も結構いると聞きます。

ご亭主があんまりうるさいから、その我儘に付き合っておかずを何品か出せばトータルで塩分、糖分が過多になるリスクが高くなるのは自明です。カロリーだって過剰摂取になっちゃいます。

身体がまだ小さいお子さんがいる家庭ならなおのこと。

栄養学の観点からも調味料はきちんと計ってトータルでミネラルやカロリーを過剰に摂らないよう奥様が配慮するのは当たり前の話です。

キッチンスケールで調味料を計っている奥様の姿を嘆かれる投稿主さんにはこの発想がすっぽりと抜けているように見受けられます。

とどのつまり

以上、どの観点から見ても奥様の調理スタイルは理にかなっていると僕は思うのですよ。

投稿主さん、いま一度、偏見のメガネを外してもっと広い視野で奥様を観察されてはいかがでしょうと僕は言いたい。

とどのつまり、そのためには、……

「いっぺん、自分で作ってみろよ」

ああ、すっきりした٩( ᐛ )و

2019/10/16 Wed.

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