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厨房日誌

プロに挑む覚悟

知人のお嬢さんが声優になりたいと言ってるんだが、という相談を受けたことがあります。

彼は休日には競馬かパチンコ、あるいは麻雀かゴルフと言った典型的なおっさんで、アニメの世界のことなんてよくわからないけどどうよ? と言ったノリの相談でした。

また、重たい相談を持ちかけられたもんです。

人さまの人生を左右するような相談に滅多なことは言えませんので、僕はどうするか決めるヒントになりそうな判断材料をいくつか提示することにしました。

まず、ポジティブに考えれば夢を追うことは彼女にとって必ずプラスになる経験だと思うと伝えました。彼女はまだ十代。なら、何年か夢に傾注したって悪くない。

夢が叶うにしろ叶わなかったにしろ、得た経験はその後の人生の大きな糧になると。

次にネガティブな意見として声優になれることは万に一つもないと伝えました。

いくら深夜アニメが隆盛を極める産業で1クール(3ヶ月)に作られるコンテンツが数十はあると言われるご時世でも声優や声優予備軍は数万人とも言われます。

1コンテンツの登場人物が平均10人前後と見積もっても椅子はたったの数百。100人以上で一つの椅子を奪い合う椅子取りゲームなのだと。

しかもその業界には実力が新人とはかけ離れたベテランも大勢いて売れっ子の彼らがメインキャストをほぼ独占しているのが現実なのだと。

彼女に直接アドバイスする機会があればこんな例え話をするんじゃないかなと思います。

「君がベストと思える声優を1人挙げなさい。そして、その声優の当たり役を挙げなさい。その役をその声優と競って勝てるのなら、君は声優になれると思う」

例えば能登麻美子とオーディションで競って閻魔あいや黒沼爽子の役を奪い取れるか? という話です(喩えが古くてサーセン)。

いやいやいや、それはいきなりハードルが高すぎでしょ。と言われるかもしれません。

けれど、現実のオーディションの現場ではそれが日常茶飯事なのです。

新人声優や声優の卵は何十回とオーディションを受けて全部落ちてやがて声優になることを諦めていくというのがほとんどというのが現実なのです。

少し違う業界の例え話をしましょうか。

高校を卒業してプロ野球に入団したルーキー。ペナントレースで彼に初打席が回ってきました。

相手のピッチャーが

「ま、初陣だし花を持たせてやるか」

なんて考えて甘い球を投げてくれたりすると思いますか?

絶対に打たれない自信のある渾身の一球を投げ込んでくるに決まっているじゃないですか。

そのバッターボックスに立った瞬間から、彼がついこの前まで高校生だったこともこれがプロ初打席であることもなんの意味もなさなくなります。

打てなきゃ即、戦力外にすべきではないかって、ベンチで議論が始まるのです。

新入社員だから少々のミスは仕方がないよとか、イチから教えてあげなきゃわからないよねとか言ってもらえるサラリーマンとは別世界なのです。

スポーツや芸事の世界は一歩足を踏み入れた瞬間からプロに挑み続けなければならない過酷な場所です。

運良く芽が出てそれなりに売れ始めると周りから足を引っ張られます。

いくつになっても自分に挑んでくる後続と芸を競い続けなければならない業を背負います。

足を踏み入れることはできても脱落せずに居続けるのは非常に困難な世界なのです。

それでもやってみたいというならば、僕は彼女にガンバレとエールを送ります。

声優は声を使って人の心を、想いを、届ける仕事。

たとえ、いつか挫折する日が来るとしても、そこで覚えたプレゼンテーションの技術は現実社会でもきっと役に立つと思うのです。

別にサラリーマンでなくても、コンビニの受け付けをやったって、ファミレスのウエイトレスをやったって、看護師になったとしてもその声は、その演技力は、何かに真剣に挑もうとするチャレンジ精神は強力な武器に必ずなります。

そして何より、そこで泣いたり笑ったりした経験は人生の宝物になるに違いないと思うのです。

2020/01/28 Tue.

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