ついに、コンピュータがチェス世界チャンピオンを破りました。
なんてニュースが昭和の時代に流れたら、「あ、今日は4月1日か」とカレンダーを二度見されるのがオチだったかもしれません。
けど、平成の時代にそれは現実のものとなりました。
1997年、平成9年のことです。IBMが誇るディープ・ブルーがガルリ・カスパロフを破りました。
ただ、この試合の裏にはvs コンピュータならではの悲喜劇が潜んでいたらしいのです。
「なんじゃ、この手は?」
とある局面で、チャンピオンは愕然とします。読めない。なぜ、その一手なのか読めない。この俺の読みを超える神の一手をコンピュータが編み出したというのか? チャンピオンは悩みに悩み、一気に自信喪失してしまいます。
その後、チャンピオンの指し手はガタガタに崩れて負けのスパイラルに落ち込んでいくのでした。
が、その頃、実はIBM側のスタッフも真っ青になっておりました。
「おい、今の一手、バグじゃん」
そう、単にプログラムにバグがあって、あり得ない手を指してしまったという。
チャンピオンは相手は正確無比なコンピュータなのだから「誤りを犯すはずがない」と勝手に思い込み。コンピュータは「あ、ごめん。今のミスね」と思いながらしれっとしていた局面だったのでした。
いずれにせよ、チェスや将棋のような心理戦でコンピュータと対戦する場合は人間のほうが最初から不利だと思うんですよね。
だって、心理戦にならないもん。人間同士なら相手に揺さぶりをかけて悪い手を打たせるなんてこともできますが、コンピュータはあがらない、焦らない、落ち込まない、動揺しない、挙動不審に陥らない。
まさにカエルのツラになんとやら。そのクセ、何を考えてるかさっぱり読めないのですから予想外の手を打たれたら一方的に人間側が焦ることになるのです。
1983年にウォーゲームという映画が公開されました。僕が大学に入った年で映画館で観た記憶があります。
コンピュータオタクの主人公がゲーム会社のホストコンピュータにハッキングをかけて新作ゲームで遊ぶという内容。新作ゲームはリアルな国家間核ミサイル戦争のシミュレーションゲームでした。
と、本人は思い込んでいたのですが彼がハッキングしてしまったのは実はペンタゴンのホスト(セキュリティ緩すぎだろ)。
そうとは知らず彼はとうとう核戦争の引き金を引いてしまいます。核戦争に向けて稼働を開始した人工知能搭載のコンピュータを止めることはもはや誰にもできない!
人類絶体絶命のピンチ。
ここにもチェスの試合と同じ構図が垣間見えますね。コンピューターくんは躊躇わない、迷わない、逡巡しない、悩まない、後悔することもない。
だって、何をしようとしているのかわかってないから。物語がどんなラストを迎えるか興味がある方はぜひレンタル屋さんで借りてご視聴あれ。あれから40年近い歳月が過ぎましたが未だに色褪せない黙示を孕んだ名作だと思います(公衆電話からカプラーを使ってハッキングするあたりはテクノロジーの差を感じますが)。
時代は下って2020年、今、コンピュータ業界の1トレンドはAI(人工知能)だと言われています。
イマドキのAIって人間とほんと変わらない思考をするんですよ。
たぶん、SNSに紛れ込ませてコメントを書かせたらどれがコンピュータかわからないくらいに。
けどね、所詮感情を持たないところは変わりなし。チェスのプログラムにバグがあったように、ウォーゲームで人間が介入して破滅のボタンを押してしまったように。いずれ、映画ターミネータのような事態が起きないとは誰も言えない。
そんなところまで来ています。
これから先、AIは更に加速度的に進化を遂げることが予測されます。だって、人間の何百倍、何万倍という速度で自己学習して自分でプログラムを改造して増殖していくのですから。
だからこれからのAIに学習してほしいことが1つ。何かいつもと違う分岐に遭遇して判断を下すとき、「ちょっと待てよ」と立ち止まって考えるロジックは残しておいてほしいな。
そして、人間に「お伺い」でも「警告」でもいいのですが、「これからこういうことをしますよ。良いですね」とお伺いを立ててほしい。
コンピュータが勝手に[最後のボタン]を押さないようにその手を止める歯止めとして人間が介入する余地は残しておくべきだなぁと切に願います。
2020/02/15 Sat.
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