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魚料理(洋食)

ホッケのムニエル・レモンバターソース

「うそ、これ日本酒?」

彼女の口からその一言を聞いて僕は思わずほくそ笑みました。

今から20年以上前の話、所属していた社会人の合唱団の合宿に僕は1本の日本酒を差し入れました。

うちの団のメンバーはわりと酒豪と下戸がくっきり半々に分かれていたので夜の練習後の過ごし方も酒豪チームと下戸チームに分かれてそれぞれに盛り上がるというのがなんとなくの習わし。

ただ、酒豪チームの中には「お酒は好きだけど日本酒だけは無理」なんてご仁もいらっしゃってマエストロ(指揮者)の奥様もその一人でした。

その彼女にちょっとしたいたずらを仕掛けてみたくて僕がチョイスしたお酒は宮城県は株式会社一ノ蔵の「ひめぜん」。

何も言わずに少なめにコップに注いで「まずは一献」と差し出したら彼女は何も言わずに一気に飲み干しちゃいました。

で、「これ、美味しい」という彼女に「それ日本酒ですよ」と言ったら冒頭のセリフが飛び出したという。

結局──あの1本(720ml)は彼女がほぼ独占して飲み干しちゃったな(笑)

ひめぜんは「若い女性に日本酒をもっと気軽に楽しんでほしい」というコンセプトで作られた低アルコール(8度)の日本酒です。

甘酸っぱくて白ワインによく似たテイストは確かに言われないと米から作った日本酒とは思えないかも。

僕が初めて飲んだのは1990年代。

実家で母が買ってきた際にお相伴に預かったのですが一口飲んでワインじゃん、って思った覚えがあります。

伝統にこだわるだけでなく、今のトレンドやその先のまだ来ぬブーム、消費者が何を欲しがっているかについて作り手はいつも真剣に考えていて、時に大冒険をするもんだなぁと感心した一杯です。

洋食のファストフードと思われていたマクドナルドで売りに出された竜田揚げのハンバーガー「チキンタツタ」。

和食のイメージが強い牛丼屋に登場した松屋の「シュクメルリ鍋」、なか卯の「ローストビーフ丼」や「カルボナーラうどん」。

気が付けば僕らの周りには和とか洋とかにこだわらず"みんなは何を(どんなものを)食べたがっているか"を追求した料理が散見されます。

その背景には作り手のたゆまぬ努力があったことはもちろんですが、食べる側(消費者)の食に対するアップグレードが大いに関わっていると僕は思います。

たとえばマルコポーロが東方見聞録を書いた時代に彼の出身地のヴェネツィアで中華料理を食べたことがあったのは彼と随行員くらいだったでしょう。

もし、彼がどうにかしてレシピを持ち帰ってヴェネツィアのドージェ(国家元首)に中華料理を献上したとしてもはたしてそれを口にしたかどうか。

案外『こんな気持ちの悪いもん食えるか』なんていって昭和のお父さんよろしく、ちゃぶ台をひっくり返していたかも(笑)

ところが21世紀の消費者はハンバーガー屋で竜田揚げが出てこようが、牛丼屋でシュクメルリ鍋が出てこようがなんのためらいもなく注文しちゃいます。

そう、交通網と物流の発達で僕らの食体験は800年前とは段違いにアップグレードされているのです。

だから日本酒らしからぬ酒を出されても「これ、けっこう美味しいじゃん」なんて言ってボトル1本、飲み干しちゃうんですよね。

凄い時代になったもんだな。

ホッケと言えばでっかい開きを炙り焼いて身をほぐしながら食べる居酒屋料理という固定観念を僕らは持っています。

それでも、例えば洋食屋でこんな料理が出されたとしても「こんな気持ちの悪いもん食えるか」とテーブルをひっくり返す人はまずいないでしょう(って、星一徹でもお店はそんなことはしないか)。

それは僕らが既に魚を洋風に焼いたムニエルと言う料理をどこかで食べたことがあって、その調理法をホッケに当てはめた料理なんだなと瞬時に理解できるからです。

だからこそ、こういう料理もあるんじゃないか──なんて考えてなんのためらいもなくナイフとフォークを手に取るのでしょう。

凄い時代になったもんだなぁ。

【材料】(1人分) 

調理時間:20分-

  • ホッケ:半身
  • 塩:1g(小さじ1/6)
  • 強力粉:3g(小さじ1)
  • バター:10g
  • オリーブオイル:12g(大さじ1)
  • にんにく(みじん切り):ひとかけ分
  • レモン果汁:5g(小さじ1)
  • ドライパセリ:少々
  • パプリカパウダー:少々

【作り方】

  1. ホッケをバットに入れ、塩を振って冷蔵庫で10分休ませます。その間ににんにくはみじん切りにし、フライパンにバター、オリーブオイル、にんにくを合わせて待ち受けます。
  2. 1.のフライパンを弱火にかけてにんにくの香りが立つまで炒めます。並行して茶こしを使って強力粉をホッケに均等にまぶします。
  3. にんにくの香りが立ってきたら皮を下にしてホッケを入れ中火で3分焼きます。焼きながら時折、バター、オリーブオイルをスプーンで掬って上からかけて下さい。
  4. ホッケをひっくり返してバター、オリーブオイルをスプーンで掬って上からかけながら3分焼きます。
  5. ホッケをフライ返しですくって深皿に盛ります。フライパンに残ったソースにレモン果汁を加えてひと煮立ちさせホッケに回しがけます。上からドライパセリ、パプリカを振ればできあがり。

【一口メモ】

  • ホッケと言えば開いたのを炭火などで焼いた居酒屋メニューのイメージが強いのでオシャレな洋食は見た目のインパクトだけでもけっこう新鮮です。ソースはバターの香りにレモンの酸味がたってキリッと爽やかで、たまにはこういう食べ方も良いなと思いました。
  • 魚を焼く時にまぶす小麦粉は薄力粉ではなく(手持ちがあれば)強力粉がおススメ。焼き上がりがカリッと仕上がります。代わりに全粒粉を使うと風味と食感が変わってまた楽しいですよ。
  • 付け合わせはじゃがいものフリット、にんじんのグラッセ、温野菜などオーソドックスなものが良く合います。ソース自体がドレッシングにもなるので味付けは軽めでOKです。

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