1968年のオンエアだそうですから僕が4歳の時ですね。
とある単発ドラマがアメリカで公開されました。
冒頭で社会的地位の高い男が殺人を犯す。
通報を受けてやってきたのは風采の上がらないよれよれコートの刑事。
男の犯罪トリックは完璧に思えたのですが、その刑事は飄飄とした会話の端々から事件の違和感をあぶり出していく。
やがて──男は追い詰められ、申し開きのできない証拠を突き付けられて刑事の推理に敗北する。
ご存じ刑事コロンボシリーズはこうして幕を開け、長い歴史を刻むことになります。
けど、意外に知られていないのはこのドラマの前に舞台劇として作られた経緯があって、バート・フリード、トーマス・ミッチェルがコロンボ役を演じたそうです。
テレビドラマ版もトーマス・ミッチェルがコロンボ警部役にという流れになるのが普通だと思うのですが、実は舞台版の公演中に体調不良で降板、その後他界されてしまったので叶わなかったそうです。
で、別の俳優を探す必要が生じました。
白羽の矢が立ったのはトーマス・ミッチェルと「ポケット一杯の幸福」で共演した目つきの悪い怪優──ピーター・フォークだったというわけです。
その後、1978年までの10年間で45本もの作品が制作され、コロンボ警部といえばピーター・フォーク、ピーター・フォークといえばコロンボ警部という認知が定着しました。
けど、定着し過ぎちゃったんですよね。
ピーター・フォークだって役者ですから他の役もやってみたい。
けれど、何をやってもコロンボ警部がなんかやってると思われちゃう。
それを払しょくしようとかなり苦労されたそうです。
余談ですが1987年に公開された「ベルリン・天使の詩」という映画でピーター・フォークは本人役(かつては天使だったけれど、人間になることを決意して地上に降り立ち、映画俳優になったという役どころ)で登場します。
中盤で彼が東ベルリンの街を歩いていると窓から顔を出した子供たちが「コロンボ、コロンボ」とはやし立てるシーンがありました。
時は壁崩壊前。
嘘か真か創作か知りませんが、東ドイツの子供達にまでその認知なんだと笑ってしまいました(笑)
人が持つ先入観や固定観念は時にその対象の自由度を奪ってしまうものです。
それは役者の世界に限った話ではなく、料理の世界でも似たことが往々にしてあります。
美味しんぼの初期のエピソードにもかつおの刺身をわさび醤油以外で食べるという話が出てきました。
けど、敢えてそんな問題提起をされなければ、僕らはお店で刺身を出されたら無意識のうちに醤油差しを手に取っているでしょう。
そのエピソードで主人公の山岡さんが示した食べ方に倣ってマヨネーズを探す人はまずいません。
さらにこの先入観や固定観念がそもそも間違った認知だったとしてもその認知は容易には覆せないところが実に興味深いです。
この料理、いんげんと牛肉の炒め物は定番の中華総菜としてスーパーのお惣菜コーナーでもよく見かけます。
けどね、実はこれ、本場の中国料理ではなくて生まれも育ちも日本です。
そもそも四季豆などの「平さやインゲン」は存在しますが、日本でよく使われる細めの「さやいんげん」は中国ではそれほどポピュラーな野菜ではないそうなのです。
ではなぜ、さやいんげんが中華総菜の具材として定着したのかというと、もやしやピーマン同様に原価が安くて流通が安定していたこと、何よりシャキシャキした食感が日本人に馴染み深かったことが理由みたい。
これなら気軽に手に取ってもらえるんじゃないかな──という考えは狙いが当たって、今では"定番"と言われるまでになっちゃいました。
もしもさやいんげんが喋ることができて、今の気持ちをインタビューしたら──"何十年も同じ役をやり続けている役者"的な愚痴をいろいろ聞かされそうな気がします。
ひとしきり愚痴を聞いたうえで、僕ならこう言い返すでしょう。
「けど、君のその料理はめっぽう美味しいんだからそれで良いじゃん」なんてね。
【材料】(1人分)
-調理時間:8分-
- 牛もも肉スライスまたは牛こま切れ:100g
- さやいんげん:数本
- 生姜スライス:1枚
- にんにく:ひとかけ
- ごま油:12g(大さじ1)
[調味料パート]
- 濃口醤油:18g(大さじ1)
- 酒:7.5g(大さじ1/2)
- 豆板醤:6g(小さじ1)
- 砂糖:3g(小さじ1)
【作り方】
- さやいんげんを茹でる湯(分量外)を沸かします。待っている間にさやいんげんは両端を落として3等分します。湯が沸いたらさやいんげんを加えて1分茹で、ざるに上げて湯切りします。
- 1.と並行して牛肉は食べやすい大きさに切ります。生姜とにんにくはみじん切りにします。[調味料パート]を器に合わせてよく混ぜておきます。
- フライパンにごま油、生姜、にんにくを入れて弱火にかけます。香りが立ってきたら、牛肉を加えて中火にし、色が変わるまで炒めます。これにさやいんげんを加えて1分炒めます。
- 3.に[調味料パート]を加えて絡めながらほぼ水気がなくなるまで炒めればできあがり。
【一口メモ】
- スーパーでもよく見かける定番中華総菜ですが、実はネイティブ中華料理ではなく日本生まれなのだとか。このレシピでは生姜、にんにくを利かせてより中華風味に寄せています。
- このレシピの段取りポイントはさやいんげんを茹でるお湯を沸かして茹で上がるまでの約3分間。この時間内で工程1.と2.の作業を全て終わらせましょう。そうすれば手を止めることなくスムースに工程3.以降に進むことができて、7、8分で料理を仕上げることができます。
- 他にも、白ネギ、細切りにした人参、茸などを加えると賑やかなおかずになります。変わったところでは細切りにしたじゃがいもを加えると腹持ちの良い1品になりますよ。加える具材の量に応じて調味料は増やしてください。