昭和39年(1964年)生まれの僕が物心ついた頃には、なぜか関東人と関西人はお互いをディスるもの──みたいな風潮が根付いていました。
ディスると言っても、例えば
「うどんのつゆが真っ黒やねんで。あんな醤油辛いもん食べられるかい」だとか、
「納豆みたいな臭いもん食うやつの気が知れん」だとか

──小学生の口げんかみたいな低レベルな戦いではあったのですが(笑)。
そんな風潮の底流にあったのはヘイトではなく対抗意識、「あいつらには負けとうない」という想いだったんじゃないかな。
ま、いずれにしても小学生レベルの話です。
僕が社会人になった翌年、元号は平成に変わりましたが、まだまだそんなことを口にする同僚たちはいましたね。
僕の先輩の中にも「箱根の山の向こうではよう暮らさん」なんて公言する人がいました。
ただ、その先輩にしても、本気で「箱根の山を越えなければ東京に行けない」と思っていたわけではないでしょう。

要は、ここ(関西)とは違うどこか異世界めいたものを関東に感じていたのだと思います。
けれど今さら言うことでもありませんが、実際には関西と関東は地続きです。
昔の人の中には、大阪からてくてく歩いていけばいずれ、江戸にたどり着く、ということを実体験した人もいたでしょうし、今でも国道1号線をひたすら歩いていけば、いつかは東京に着くことを僕らも頭では理解しています。

ただ、それが実感としてピンと来ないだけ。
ところが、話が「時間」となると、頭で理解することすら難しくなる気がするんですよね。
織田信長とか坂本龍馬なんて名前を耳にしても、多くの人は映画やゲームに登場する異世界人めいたイメージを持つんじゃないでしょうか。
けれど実際は、僕らのお爺さんの、そのまたお爺さんと辿っていけば、必ず信長や龍馬と同じ時代を生きた人がいます。
なんなら、道ですれ違ったなんてことすらあったかもしれません。

戦国時代や幕末は、僕らが生きる21世紀と地続きである──。
これを実感するのは、東京と大阪が地続きであることを実感するより、何倍も困難……だよなぁ(笑)。
だからでしょうか。
僕らは時として、今の暮らしぶりや風俗が、昔からずっとそうであったかのように錯覚することがあります。
例えば食生活。
世の中には「肉のおかずがない食事なんて考えられない」とか、「ドレッシングをかけたサラダは絶対ほしい」なんて口にする人がいますが、そんな食生活が家庭に浸透し始めたのは、たかだか数十年前。
映画『三丁目の夕日』の舞台になった時代、つまり戦後の食糧難が落ち着いた頃以降の話です。

それ以前は、肉のおかずも生野菜を使ったサラダも、一般家庭の食卓に上ることはなく、けれどそれが当たり前の「食事」だったのです。
それでも、大阪からずっと歩いていけば、いつか江戸にたどり着けるのは地続きだからこそ。
同様に、僕らが肉のおかずやサラダを食べられるのも、それ以前の食文化があって、その時代と今が地続きだからこそ、今のスタイルになったと言えると思います。
たまには、こんな夕ご飯を再現してみましょう。

とても懐かしい味がすると思います。
それは、時間もまた「地続き」であることの証なのでしょう。
【材料】(1人分)
-調理時間:17分(煮含める時間は含めていません)-
- 大根:3cm分
- 薄揚げ:1/8丁
- 生姜スライス:1枚
- ごま油:4g(小さじ1)
[下味パート]
- 濃口醤油:3g(小さじ1/2)
- 砂糖:3g(小さじ1)
[煮汁パート]
- かつお出汁:80g(80ml)
- 味噌:6g(小さじ1)
[仕上げパート]
- オイスターソース:3g(小さじ1/2)
【作り方】
- 大根を下茹でする湯(分量外)を沸かします。待っている間に大根は皮を厚めに剥いて(かつら剥きにして)7mm厚のいちょう切りにします。薄揚げは深皿に入れておきます。
- 湯が沸いたら大根を加えて中火で5分下茹でします。茹で上がりを待っている間に生姜を千切りにします。大根をざるに上げ、茹で汁を薄揚げの器に注いで油抜きに使い回します。油抜きが終わったら薄揚げは絞って細切りにします。
- 小鍋にごま油と生姜を入れて中火にかけます。香りが立ってきたら大根を加えて1分炒めます。さらに[下味パート]を加えて1分炒めます。
- 3.に[煮汁パート]を加えてひと煮立ちさせます。蓋をし、弱火で5分煮ます。
- 4.の火を止めて[仕上げパート]を加えてさっと混ぜます。そのまま蓋をせずに煮含めればできあがり。
【一口メモ】
- 煮込む前に[下味パート]の調味料を絡めながら炒めておくことで味がしっかり付きます。
- 昔ながらのおかずである『味噌煮』にオイスターソースを使うといった21世紀らしいアレンジを加えてあります。長い歴史の中で進化してきた今風のテイストをご賞味あれ。
- お肉の在庫が乏しい時、薄揚げは超便利なアイテムです。地味な野菜の煮物が華やかになりますよ。冷凍保存が利きますので、一食分ずつに小分けして常備しておきましょう。ただし、冷凍庫内の他の食物の匂いが移りやすいので油抜きはしっかりやってください。
- 辛いのがお好きな方は生姜と一緒に小口切りにした鷹の爪を加えて炒めて、一緒に煮てください。あと、仕上げに粉山椒を振っても美味しいですよ。

