「「あまい、あまい、あまざけ!」
江戸の市中にそんな甘酒屋の呼び声が聞こえだすと江戸の人々は夏が来たなぁと感じたそうです。
甘酒と言えば初詣などで寒い中、ふうふう吹きながら熱いのを飲むイメージがある僕らからするとちょっと違和感がありますが、江戸時代、甘酒は夏の風物詩。
冷やして飲まれていたそうです。
俳句の世界でも甘酒は夏の季語なのですよ。
いまさら言うまでのないことですが日本は四季の変化がはっきりした風土です。
春夏秋冬、それぞれに見どころがあり、美味しいものがある夢のような国です。
そんな土地柄からか僕らのご先祖は四季折々の風物を愛で、美味しいものを食べるイベントを設けました。
3月3日の桃の節句には白酒、ちらし寿司、はまぐりの吸い物を。
5月5日の端午の節句には柏餅、ちまき。
7月7日の七夕にだって織姫にちなんで糸に見立てた素麺を食べる風習があったそうです。
どんだけ食いしん坊なんだよ>ご先祖。
そうした"季節のイベントに食べ物を紐づける"気質はもはや国民性と呼んでも差し支えないと思うのですが、その国民性を見抜いている現代の商売人たちはあの手、この手で"今しか食べられない"商戦を仕掛けてきます。
バレンタインデーとホワイトデーもなぜかプレゼントの定番は食べ物ですし、クリスマスと言えば"教会でお祈り"ではなく、"チキンとケーキを食べる"イベントと化しています。
そしてまた、それが"売るための方便"であるとわかっていながら乗っかってしまう僕らはやっぱり"〇〇限定"にめっぽう弱い国民性なのでしょう。
その証左として、こういったイベントはどこかで打ち止めになるかと思いきや節分の恵方巻のように、あとからあとから発明されて、またまたそれに、僕らは乗っかってしまうという──ホント、日本人って面白いよな。
けれど、その季節や特別な日に特別な食べ物をいただくという一種の儀式にもちゃんとした意義があります。
最たるものは"季節を感じ、楽しむ"こと。
かき氷に夏の到来を感じたり、熱々の甘酒をすすって寒い冬がちょっと楽しく感じられたりする人も多いでしょう。
こういった意義は僕も子供の頃から感じていて、今も変わらないのですが、還暦を過ぎた近頃、別の意義も感じ始めております。
それは──"過ぎ行く季節を見送りながら、愛おしむ"こと。
還暦を過ぎたとはいえ、今のところ、健康面では問題ありませんし、今日、明日に自分がどうこうなるという気はさらさらしません。
けど、1年スパンで考えるとそんな確信も少し頼りなくなります。
例えば春、満開の桜の木の下を歩きながら、来年もこの桜を見られるかしらん──なんて感傷的な気分にひたることが僕にだってあるのです。
ま、そうは言いながら季節が一巡してまた春が来ればそんな感傷などけろっと忘れてしまっているのでしょうけど(笑)
けれど、いつかは"最後の桜"を見る日が僕にも来るでしょう。
少なくともあと50回桜を見られる自信はありません(って、111歳になっちゃってるじゃん)。
あと、20年か30年か案外もっと近い将来かもしれない──いずれにせよ60年以上生きて来た身としては最後の春までの時間はさほど長くは感じられません。
だから「今、見ている桜が最後の桜かもしれない」なんて少し考えながら──"過ぎ行く季節を見送りながら、愛おしむ"のです。
そう考えるだけでなんの変哲もない桜が特別なものに見えてきますよ。
そして、その季節、その日にしか食べられないものを忘れずに食します。
だって、もし食べそびれてそれきりになってしまったら、あのとき〇〇を食べておけばよかった、と未練が残ってしまいそうな気がします。
って、僕もたいがいに食いしん坊だな(笑)
2025年7月1日は半夏生でした。
この日は、田植えを終えた人たちの労をねぎらい豊作を祈念してタコを食べるのが習わしです。
タコの足をたわわに実った稲穂に見立てるのが起源らしい。
手ごろなお値段のタコを見かけたので買って帰って、こんな料理を作りました。
今年もつつがなく夏を迎えられたことに感謝しつつ。
さて、来年はどんなタコ料理を作ろっかな♪
【材料】(1人分)
-調理時間:7分-
- ゆでだこ:70g
- きゅうり:半本
- トマト:1/4個(またはミニトマト2、3粒)
- 塩、ブラックペッパー:適宜
[タレパート]
- 砂糖:3g(小さじ1)
- 酢:10g(小さじ2)
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- おろし生姜:ひとかけ分
- おろしにんにく:ひとかけ分
- 炒り胡麻:2g(小さじ1)
- ごま油:6g(大さじ1/2)
【作り方】
- タコは1cm角の賽の目に切ります。キュウリは端を落とします。これに塩をまぶしてまな板の上で転がしながら軽くこすり(塩ずりし)、すりこ木で叩きます。これを縦4等分にし1cm幅の小口切りにします。トマトは1cm角の賽の目に切ります。ミニトマトを使う場合はヘタを取って、薄くスライスします。[タレパート]は合わせてよく混ぜておきます。
- 1.と[タレパート]を器に合わせてよく和えます。味を見て物足りなければ塩、ブラックペッパーで味を整えればできあがり。
【一口メモ】
- 丁度、半夏生だったので酢だこを戴きましょうとタコを買ってきました。けれど、いつも和風じゃつまらないと思って中華風に味を寄せたら思った以上に美味しかった。オーソドックスな酢だこに飽きたらぜひどうぞ。
- 半夏生にタコを食べる風習は、田植えを終えた稲がタコの足のようにしっかりと根を張るように、という豊作を願う気持ちが込められています。けれど、この風習は単なる験かつぎだけでなく、タコに含まれるタウリンが田植えで疲れた体の疲労回復に効くという科学的根拠もあるのです。
- お好みで叩いた梅干しを加えるのもおすすめです。昔からタコと梅干しは食い合わせが悪いと言われますが科学的な根拠は特にありません。むしろ、梅干しに含まれるクエン酸は疲労回復、消化促進の効果がありますので体力が落ちる夏場にはもってこいなのです。