腕利きの料理人がふとしたことからタイムマシンを手に入れて出張料理人を始める。
行く先々で客たちは彼の料理に舌鼓を打ち、その評判はうなぎのぼり──
というプロットを見せられたらアニメファンやラノベファンの多くは「また、このパターンかよ」とうんざりした顔になるんじゃないでしょうか。
「異世界居酒屋のぶ」や「異世界食堂」の二番煎じじゃないか、ってね。
けどもし、その腕利きの料理人が出向く先が専ら数百年後の未来だと知ったらどうでしょうか?
その未来では僕らが普段当たり前に食べている料理の多くが失われているのです。
彼が未来に通う本当の動機は「なぜその料理たちは失われたのか」──その理由を探ること。
やがて──歴史の中で消失し、埋もれていった料理たちがたどった運命を彼は解き明かしていく……。
なんてプロットであればなかなか読み応えのある物語になりそうです。
今、僕らが当たり前に食べている珍しくもなんともない料理を食べられないのは何も昔の人や異世界人だけではないかもしれません。
僕らが"普段着の料理"と思っている皿のうち、いったいどれだけが50年後、100年後まで残っているでしょうか。
──その疑問の答えは、自分たちに置き換えて考えると、自ずと見えてきます。
2025年の今年から丁度100年前は1925年、大正14年でした。
関東大震災の2年後、翌年は昭和に元号が変わるといった時代です。
ChatGPTに質問してみると大正14年頃の一般的な夕飯の献立は「白ご飯+汁物+漬物+おかず1~2品」が基本の構成。
メジャーなおかずは焼き魚(鯵・鯖・秋刀魚など)、煮物(大根とがんも、里芋と鶏肉)、卵焼き(まだやや贅沢)、野菜の炒り煮、おひたし、鰯の梅煮などの青魚の煮つけなどだそうです。
洋食は一部の都市部でようやく広がり始めたところといった感じみたいですね。
さて、上に挙げたおかずのなかで僕らの日々の食卓に登場するおかずが何品あるでしょう──というのがそのまま100年後の食卓を想像するヒントになるはずです。
ましてやそれよりもっと未来となればなおのこと。
『その腕利きの料理人が出向く先は専ら数百年後の未来だった』
といったプロットはあながち荒唐無稽とは言えますまい。
若鶏の唐揚げは、100年後もおかずとして生き残っているかもしれません。
けれど、「あんかけ唐揚げ」はどうでしょう?
今の時代でさえもあんかけ唐揚げは若鶏の唐揚げに比べるとずっとマイナーな料理です。
その生存確率は、唐揚げ単体よりもずっと低いはずです。
けれど、もしも今書こうとしているこのレシピが100年後も残っていさえすれば、100年後の人たちも失われたあんかけ唐揚げを楽しむことができるはず……
なんて考えると、レシピを書く意義と責任もぐっと重く感じられてきます。
……これは、さすがに誇大妄想でしょうか(笑)
願わくば、100年後も若鶏や片栗粉が入手できますように。
【材料】(1人分)
-調理時間:30分-
- 鶏もも肉:150g
- 片栗粉:適宜
- 揚げ油:適宜
- あり合わせの野菜類:玉ねぎ、人参、ピーマン、茸類など
- 水溶き片栗粉:片栗粉5g分
[下味パート]
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 酒:7.5g(大さじ1/2)
- おろしにんにく:ひとかけ分
- おろし生姜:ひとかけ分
[餡パート]
- 水:80ml
- 濃口醤油:18g(大さじ1)
- 砂糖:4.5g(大さじ1/2)
- 酢:7.5g(大さじ1/2)
【作り方】
- 鶏もも肉を一口大に切ります。これと[下味パート]を合わせて冷蔵庫で20分漬け込みます。待っている間に[餡パート]を合わせてよく混ぜておきます。あり合わせの野菜を細切りにします。 ※鶏肉は揚げると縮むので少し大きめに切るのがコツです。
- 1.の工程終わりに合わせて揚げ油を170度に温めます。鶏肉の水気を切り片栗粉をまぶします。揚げ油が温まったら鶏肉を加えて3分揚げ、かす揚げで掬ってよく油を切ります。
- 中華鍋に[餡パート]と野菜類を入れて中火にかけひと煮立ちさせます。これに2.の唐揚げを加えて1分煮ます。水溶き片栗粉を加えてとろみを付ければできあがり。
【一口メモ】
- 若鶏の唐揚げはおつまみとしては最強だと思うのですがおかずとしてのボリューム感はこっちの方が上かも。とろとろの餡と一緒に戴く唐揚げは至福のごちそうですよ。
- このレシピの[餡パート]は揚げ物全般に適用できます。手持ちのあり合わせの食材に片栗粉をまぶして揚げたらあとは餡を絡めるだけ。お肉だけでなく白身魚や野菜でやっても美味しいですよ。例えばお財布に優しいお値段の鱈を揚げ焼きにして餡に絡めるなんてのもありですし、スーパーで買ってきた野菜の天ぷらに餡をかければワンランク上のご馳走になります。
- 餡の味の要は砂糖の分量です。甘めがお好みでしたら6g(小さじ2)にしてみてください。