「こんなのチャーシューじゃない」──
そのセリフだけ切り取って書くとなんか美味しんぼじみた響きになりますがとある焼鳥屋の忘年会で出てきたセリフです。
僕がよく行く焼鳥屋は年末の数日間、忘年会と称して会費制、料理はコース料理、酒は飲み放題という企画をやっていました(コロナからこちらはこの企画も休止中らしいのですが)。
料理のメインはもちろん大将が焼く焼き鳥の盛り合わせなのですがそれ以外にも評判の店から仕入れてきた肴が並びます。
その中の一品が地元で評判のチャーシュー専門店で仕入れてきた看板料理のチャーシューでした。
冒頭のセリフは店の常連としては若手、たぶん二十代の男の子が発したものです。
彼の言には毒も悪意も含まれていなかったので場の空気を悪くするようなものではなかったのですが、そこから彼が力説した「本物のチャーシューとは」という講釈は主観的で抽象的で──
全く要領を得ず他の常連たちはきょとんとするばかりでした。
振り返ってみると彼はちょっとボキャブラリーが貧困で愛すべきいじられキャラな一面があったなぁw
僕もその場では彼が思い描く「本物のチャーシュー」がどんなものかはぼんやりとしかわからなかったのですが家に帰って調べてみて合点がいきました。
中国料理の定義に照らしてみれば確かに彼が言う通りあれはチャーシューではなく醤肉(ジャンロウ)という豚肉料理を日本風にアレンジしたものいわゆる「煮豚」でした。
日本ではわりとごちゃまぜになっている気がしますが中国では「叉焼(チャーシュー)」、「煮豚」、「焼き豚」は別の料理としてはっきり区別されます。
叉焼で使われる部位は肩ロースまたは豚バラ。
専用の炉を使って焼きます。
表面がカリッと焼けているのが特徴です。
煮豚は「醤肉(ジャンロウ)」という料理を日本風にアレンジしたもので柔らかくジューシーなのが特徴。
ラーメン屋のトッピングに使われるのはこの煮豚がほとんどです。
最近はやりの「レアチャーシュー」もお肉を低温で時間をかけて煮込む料理なので煮豚の一種ですね。
焼き豚は豚バラやもも肉を使った料理で醤油、酒、味醂、おろし生姜などを合わせたタレを使って味付けします。
特徴的なのは焼きながら何度もタレを塗ってコーティングすること。
照り焼きに近い料理です。
なんて長々と書いてしまいましたが何が言いたかったかと言うとそもそも「(鶏の)煮込みチャーシュー」という料理名がおかしいのです。
だって煮ている時点で叉焼じゃないですから。
とはいえ日本的な視点でいえばこれは「チャーシュー」と呼ぶよなぁと思ってこの名前にしました。
実は別の料理だとわかってネーミングしてますよと言い訳したかったのです。
って、話ながっ!
【材料】(1人分)
-調理時間:2時間(下茹で時間)+10分(タレ焼き時間)-
- 鶏むね肉:1枚
- 塩:1g(小匙1/6)
- ブラックペッパー:少々
[タレパート]
- 濃口醤油:18g(大匙1)
- 砂糖:6g(小匙2)
- 味醂:12g(小匙2)
- 酒:5g
- 酢(できればバルサミコ酢):5g(小匙1)
- おろし生姜:ひとかけ分
【作り方】
- 鶏むね肉の皮目に大き目のフォークを刺して数か所穴を開けます。これに塩、ブラックペッパーをまぶして耐熱性のジップロックに入れ空気を抜いて口を閉じます。 ※ジップロックの口にストローを挿してジッパーを閉じストローから空気を吸いだせばしっかり空気が抜けます。簡易真空パックですね。
- 炊飯器に1.のジップロックの口を上にして入れひたひたのお湯(沸騰している必要はありません)を注ぎます。炊飯器の蓋をして保温モードをONにし2時間放置して鶏肉に火を通します。 ※炊飯器の保温モードは約70度に設定されています。この低温で時間をかけて火を通すことで肉の硬化を抑え柔らかいチャーシューが作れます。
- 2.の工程終わりに合わせてフライパンに[タレパート]を合わせてひと煮立ちさせ火を止めておきます。
- 2.の肉を食べやすい大きさに切って3.のフライパンに入れます。これを弱火にかけて[タレパート]を絡ませながら煮詰めて水気がほぼなくなるまで煮込めばできあがり。
【一口メモ】
- 便宜上、チャーシューと名付けていますが味は照り焼きに近いテイストです。ただ照り焼きと違ってお酢と生姜を加えているのでさっぱりした風味で箸が進みます。
- 煮込み時間がかかりますが仕込んでおけばあとはほったらかしでOKです。焼きの調理時間は10分ほどで済むので夕飯にするならお昼ご飯を食べ終わったタイミングくらいで煮込み始めましょう。
- 手持ちが胸肉だったのでこのレシピでは胸肉と書いていますがもも肉、ささみでも美味しく作れます。
- お好みで食べる時に粉山椒、七味唐辛子などを振ると風味が変わってまた楽しいですよ。