実家の近所に焼鳥屋があります。
そこにあることは僕が小学生の頃から知っていたのですがさすがに小学生が入って良い店ではないとわかるくらいの分別はあったので前を素通りするだけ。
けれどなんだか気になるお店でした。
大学の卒業と同時に実家に戻りましてご近所を探訪したら──件の焼鳥屋は今でも営業中でした。
もはや酒が飲めない小学生でもなし。
何のためらいもなしにその店の暖簾をくぐるまでそう時間はかかりませんでした。
席はカウンターのみ。
7、8人も入ればいっぱいになりそうなこじんまりとしたお店。
フレンドリーな小母さんに「いらっしゃい」と迎えられてスツールに腰かけた時はまさか……
まさかそれから十年近く週に2度も3度もそのスツールに座ることになるとは思ってもみませんでした。
つまり僕は店の居心地の良さに魅了されてすっかり常連になっちゃったんですね。
結婚して他所に引っ越していくまでせっせと通い詰めたのでした。
どの料理も美味しかったけれどなんと言っても店のウリは鶏のもも肉を1枚まるっと焼いたタレ焼き。
僕は未だにあれより旨いタレを食べたことはありません。
なんでも創業以来一度も作り直しておらず毎晩火を通しては調味料を追い足しているだけだとか。
そこに鶏肉をどっぷり突っ込んでから焼くのですがこの時タレも鶏肉の旨味をもらっているらしい。
僕が小学生だった頃もその日常は繰り返されていて僕が初めてそのタレ焼きを口にしたのはその十数年後──こんなの旨いに決まってますやん。
タレは焼鳥屋の顔であると僕はその店で知りました。
僕の実家は神戸なので阪神大震災はまともに喰らった口なのですが震災後、初めて店に顔を出して口をついた言葉は
「タレは無事だった?」でした。
をいをい、薄情すぎるだろw > 自分
爾来、僕はどこの焼鳥屋に行ってもタレ焼きを頼むのを躊躇するようになりました。
どうしてもあの店のタレ焼きと比べちゃうんですよね。
だから「タレと塩どっちにします?」って訊かれるとつい「塩」と答えちゃう。
もっと果敢にチャレンジしても良いのにと自分で自分を鼓舞したりするのですが日和っちゃうあたり小心者ですね。
ましてや家で焼き鳥を作るときにタレ焼きに挑戦するなどもってのほか。
あの二十年以上年季を積んだタレを超えることができるはずもなしと作る前から考えちゃいます。
けどよくよく考えてみたら塩焼きだってたぶん奥行きはうんと深いと思うのです。
タレに比べたら簡単だろなんて舐めた口をきくのは浅瀬でちゃっぷちゃっぷ水遊びをしていた子供が「海で泳いできた」と自慢するに等しい。
過日、鶏のもも肉の手持ちがあったので今夜は焼鳥が食べたいなと思い立ちました。
味は塩一択。
けどちょっとは真面目に料理と向き合っても良いのじゃなかろうかと思いましてこんな風に仕立ててみました。
【材料】(3串分)
-調理時間:42分-
- 鶏もも肉:120g
- 白ネギ(白いところ):12cm
[タレパート]
- 酒:15g(大匙1)
- 味醂:9g(大匙1/2)
- 蕎麦の返しまたは麺つゆ:5g(小匙1)
- 塩:2g(小匙1/3)
- ごま油:4g(小匙1)
- マヨネーズ:3g(小匙1/2)
【作り方】
- [タレパート]の酒、味醂を器に入れて電子レンジの200ワットで1分チンします。これに残りの調味料を加えてよく混ぜます。
- 1.と並行して鶏肉は3等分し更に3等分して9個のパーツを作ります。ネギは2cmのぶつ切りにして6個のパーツを作ります。これを1.に30分漬け込みます。
- 2.を肉とネギ交互に串に打ちます。魚焼きのグリルで数分、こんがり焼けばできあがり。 ※時々取り出して表面に[タレパート]を塗ってください。
【一口メモ】
- ごま油の風味が鼻腔をくすぐって食欲を刺激します。塩とも好相性でけっこうヤミツキになる味ですね。
- タレはごま油を利かせた塩系のタレを調整しました。ごま油と麺つゆを乳化(油と水を均等に混ぜること)させるために秘密兵器マヨネーズを使っています。
- 塩はちょっと強めに利かせていますがこれくらいで丁度良い感じだと思います。
- お好みで食べる時に粉山椒や七味唐辛子を振っても楽しいですよ。