「あなたは自転車に乗れなかった頃の自分を思い出すことができますか?」
と質問されたら多くの人が「うーん」って考え込んで「無理」と言いそうな気がします。
あ、先に言っておきますが今でも自転車に乗れない人はごめんなさい。
むちゃな質問でしたね。
その方は……そうですね。
「鼻をかめなかった頃の自分」
にでも質問文を置き換えてください。
とまれ人には苦手なことというのはあるものでわりとみんな普通にできているのになぜか自分は上手にできないことがあります。
料理で言うと僕の場合、卵焼きや出汁巻き卵を作るのが苦手というか無理でした。
ある時はスクランブルエッグみたいになったり、ある時は炒り卵みたいになったり、挙句にはなんか黄色いアメーバーのようになったりしてしまうのです。
火加減を変えてみたり油を多く使ってみたりフライ返しを片手に危なっかしい手つきでつつきまくって収集が付かなくなったこともありましたっけ。
ということで「普通の卵焼きを焼く」というのは長年僕の料理の目標でした。
ところがある時、馴染みの焼鳥屋でバイトの女の子(看護学校の生徒さんでした)がいとも簡単に卵焼きを焼いているのを目撃しちゃったのです。
じっと観察していると菜箸でひょいひょいと卵を返しながら巻いているだけ。
けど卵の塊はどんどん太くなってちゃんと卵焼きの形になっていく。
衝撃的な光景でしたね。
大抵の料理はそれほど練習しなくてもなんとなく作れるようになると自負している僕を差し置いて二十歳にもならない女の子が卵焼きを作れちゃうなんて。
けどその光景を見ていてひとつ変な自信みたいなものが湧いてきました。
卵焼きは玉子焼き器と菜箸以外に特別な道具は何もいらないんだ。
しかも熟練した鰻職人のような特別な焼きの技巧を必要とするわけではなく女の子がひょいひょいひょいと鼻歌交じりに作れちゃう料理なんだ──と妙に納得したのです。
それからいくばくか歳月が過ぎ、何度か卵焼きの失敗作を作り続けた結果──とうとう僕は卵焼きが焼けるようになりました。
今となっては……
「あなたは卵焼きが焼けなかった頃の自分を思い出すことができますか?」
なんて訊かれても「うーん……無理」と言っちゃいそう。
なんで焼けなかったのか今となってはもう思い出せないのです。
とまれ今ではこんな感じの野菜入りの出汁巻き卵でも普通に作れちゃうようになりました。
【材料】(2人分)
-調理時間:12分-
- 卵:3個
- ほうれん草:1株
- サラダ油:4g(小匙1)
[だしパート]
- 白だし:10g(小匙2)
- 水:30g(大匙2)
- 片栗粉:4.5g(大匙1/2)
【作り方】
- ほうれん草は洗って根元を切り落として1cm幅のざく切りにします。卵と[だしパート]をボウルに合わせてよく溶きます。これにほうれん草を加えてよく混ぜます。
- 玉子焼き器を強火にかけて十分に熱します。これを塗れ布巾に載せてじゅっと言わせます。音がしなくなったらコンロに戻してサラダ油を加えて中火にかけ油をまんべんなく伸ばします。
- 2.に1.の1/4量を流し入れて中火で焼きます。卵の上面が固まったら奥から巻いていき手前まで負けたら箸先で押して玉子焼き器の一番奥に寄せます。
- 3.にまた1.の1/4量を流し入れて同じ要領で焼いて玉子焼き器の奥に寄せます。これを卵液がなくなるまで繰り返します。 ※出汁巻き卵が太くなってくると菜箸で挟んで巻くのが難しくなるので箸先を出汁巻き卵に刺してしっかり固定しながら巻きましょう。
- 4.を一旦皿に取ります。これをフライ返しで掬って卵の上面(皿と接している面)を下にして30秒ほど中火で焼けばできあがり。
【一口メモ】
- ほっこり美味しい味わいです。できれば焼き立ての熱々を召し上がれ。ほうれん草は……存在感を忘れるくらい違和感なく中に納まっています。
- 野菜入りにすることで卵では摂れない栄養素も摂れるようになるのでおススメです。この形にすると野菜嫌いな子供達でもわりと喜んで食べちゃうんじゃないかな。
- 同じ要領でニラを使って焼くと中華風のお惣菜になります。その場合はサラダ油の代わりにごま油で焼きましょう。あるいはツナやカニカマなどを入れても美味しいですよ。