江戸後期、明治維新の百年ほど前にあたる1700年代後半。
日本の都市部は世界に類を見ない進化を遂げていました。
江戸の街は既に100万人都市、上水道は完備され、下水はなかったけど堆肥として農家が買い上げるシステムが確立。
食文化も華やかで爛熟期を迎えておりました。
欧州の食文化が一部の特権階級の中で育まれた王宮料理に端を発しているのに対して、日本の食文化は庶民の日常的な食生活から生まれてきたというのが特筆すべきことだと思います。
1782年(天明2)には大阪で「豆腐百珍」という料理本(豆腐料理ばかりが百種類載っている本)が発売され大人気となったとか。
欧州ではフランス革命(1789年)の前夜、とても庶民がグルメブームに沸きかえるムードじゃありませんでしたのでこれは凄いことだと思います。
「豆腐百珍」があまりに売れたので「続・豆腐百珍」が発売され(この辺は240年後の今とやっていることは変わらないなぁ^^;)、『大根百珍』『鯛百珍』『甘藷百珍』『玉子百珍』とこれでもかこれでもかと類似本が発売されたそうです(ホント、240年経ってもちっとも変ってないという)。
豆腐百珍の面白いところは料理に6段階のランキングが付けられていて、しょっちゅうお惣菜として食卓に上る『尋常品』から始まって、『通品』、『佳品』、『奇品』、『妙品』、『絶品』と難易度が上がっていきます。
特に絶品は「さらに妙品に優るもの。ただ珍しさ、盛りつけのきれいさにとらわれることなく、ひたすら豆腐の持ち味を知り得るもの」というなんだか凄い定義になっていて、ちょっと近寄りがたいような執念を感じます。
その『絶品』7品の中には「湯やっこ」(湯豆腐ですね)が入っている辺り、なんだか美味しんぼワールドを感じさせます。
確かにあの料理程、豆腐本来の味を楽しめるものはないとは思うのですが……
そんな「豆腐百珍」の中でも田楽料理は尋常品から絶品まで幅広いランクで再々登場します。
上にかけるものも雲丹餡であったり、葛餡であったり、豆腐も湯通しするだけでなく焼いて焦げ目を付けていたりと調理法も多彩です。
そんな中で今回は平成の我々に一番馴染のある田楽味噌を使った田楽料理のご紹介です。
【材料】(2人分)
-調理時間:30分-
- 木綿豆腐:1丁
[田楽味噌パート]
- 赤味噌(又は八丁味噌):24g(大匙1+小匙1)
- 砂糖:13g(大匙1.5)
- 味醂:9g(大匙1/2)
- 酒:7g(大匙1/2)
- 粉山椒:少々
【作り方】
- 豆腐をキッチンペーパーで包んで耐熱皿に載せ、電子レンジの強で3分チンします。
- 1.のキッチンペーパーを取り換え(熱いので注意)、粗い網の上に載せて上から重石を載せて水切りします。この手順でやるとハイスピードに水切りができます。20~30分で豆腐が冷める頃にはしっかり水切りできています。
- 2.をやっている間に[田楽味噌パート]を合わせてよく混ぜておきます。
- 2.を2cm角の賽の目に切って皿に盛り、3.をたっぷりかければできあがり。
【一口メモ】
- 豆腐の味は淡白なので飽きがこなくてどんどん箸が進みます。舌先の上でピリッと辛みを躍らせる山椒が何気に楽しい一品です。
- 焼き豆腐に焼き味噌を塗る田楽も楽しいですが、素のままの豆腐が味わえてこれも捨てがたいですよ。
- [田楽味噌パート]のレシピは転用できますので焼き茄子や焼きこんにゃくでも試してみて下さい。