俺は世界最高峰と呼ばれた料理人だ。

ある日、俺は交通事故に遭って異世界に転生した。
だが、料理人としての腕も技術も体に残っている。
これさえあればこの世界でも食っていけるさ。
手始めに働き始めた小さな料理屋で親方が俺に言った。
「おい、見習い。まずは、竈に火を熾してくれ」……。

俺は自分の技術が何の役にも立たないことを思い知った。
──なんていうショートショートを考えてみました。
そう、現代知識を持って異世界転生しても、その世界の文明レベルが数百年前だと全然無双できないのです。
僕だって、「火を熾してくれ」なんていきなり言われたら「あの、マッチかチャッカマンはありませんか?」って訊き返すと思いますもん(笑)

そういった不都合を解消すべくラノベ作家が取る手段は概ね2つ。
一つは店ごと異世界に転生させちゃうパターン。
ガスも電気も使えるし、調味料や食材も揃っている、という状況にしてしまう方法ですね。

「異世界居酒屋のぶ」や「異世界食堂」などが代表作です。
もうひとつはガスや電気、果ては調味料までも生成できてしまう「魔法」という概念を持ち出す方法。
ドラえもんの4次元ポケットと同様、なんでもありな設定です。

2025年夏アニメになった「追放者食堂へようこそ!」なんかはこの系統でしょう。
反面、鉄腕DASHのように調味料も作物もイチからクラフトするという作品はあまりお目にかかりません。
強いて言えば料理漫画ではないけれど、全人類が石化した惨事から数千年後を描いた「Dr.STONE」でしょうか。
あれは科学文明の進歩をなぞるのがテーマなだけあって、ラーメンやパンもどうやって作るのかが丁寧に描かれていました。

ともあれ、フィクションの世界なら、なんらかの「ご都合主義」を持ち込めば解決する問題もドラえもんがいない現実世界では人間が知恵と工夫でどうにかするしかありません。
実際、現代の便利な調理環境がない中で生まれた工夫は、現実の料理の中にもちゃんと存在します。
例えば──。
大阪で一番古い洋食屋である自由軒(難波本店)の創業は明治43年。
創業当時からある名物料理にカレーライスがあるのですが、ちょっと変わっています。

ご飯とルウが完全に混ぜてあって真ん中に生卵が割り込んであるスタイル。
「え、ライスとルウは客が自由に混ぜられるようにしてよ」というなかれ。
ちょっと明治時代のレストランの厨房を想像してみてください。
そう、電子レンジはおろか、炊飯器も保温ジャーもないのです。

つまり、炊き上がったご飯は時間とともに冷えて固くなるだけ。
なんとか温かい料理をお客さんに食べてもらいたい──そう考えた店主が考案したのが、フライパンでぐつぐつ煮えているカレーに冷ご飯を加えて混ぜ込みながら温め直す方法。
もちろん、今となっては無用の手順なのですが、店の看板料理の特徴として遺しているようです。
今日の料理は揚げた鶏肉や根菜に餡を絡めるスタイルです。

揚げ物のサクサク感は損なわれますが、代わりにしっとりとした独特の食感が楽しめます。
しかも、餡自体が冷めにくいので、ゆっくり食べても最後の一口まで温かいというメリットもあるんですよね。
異世界グルメものの小説やアニメも些か食傷気味の昨今。
魔法でも、現代文明の恩恵でもなく、料理人の創意工夫だけで美味しい料理を作るような作品が出てこないかなと切に期待している今日この頃です。
【材料】(1人分)
-調理時間:18分-
- さつまいも:100g
- ごぼう:1/4本
- 人参:30g
- 鶏もも肉:半枚(150g)
- 揚げ油:適宜
- 水溶き片栗粉:3g(小さじ1)+水15ml(大さじ1)
[鶏肉の下味パート]
- 塩、ブラックペッパー:少々
- 片栗粉:適宜
[餡パート]
- 三温糖:9g(大さじ1)
- 濃口醤油:18g(大さじ1)
- 酢:15g(大さじ1)
- ダシ汁(昆布出汁):80ml
【作り方】
- さつまいもは皮付きのまま7mmの輪切りにして水(分量外)に5分晒します。ごぼうは皮付きのまま7mm厚の斜め切りにして水(分量外)に晒してアクを抜きます。人参は7mmの輪切りにします。鶏肉はぶつ切りにして[鶏肉の下味パート]をまぶします。
- 揚げ油を温めます。待っている間にさつまいも、ごぼうの水気をふき取ります。油の温度が140度を超えたらさつまいも、ごぼう、人参を加えてゆっくり160度まで温度を上げていき素揚げします。表面がカラッとしたら引き上げてよく油を切ります。
- 2.の揚げ油を180度に温めます。鶏肉を加えて3分揚げます。この間に[餡パート]を合わせてよく混ぜておきます。
- フライパンに[餡パート]を加えて中火にかけます。煮立ってきたら水溶き片栗粉を加えてとろみを付けます。これに鶏肉、野菜類を加えて絡めればできあがり。
【一口メモ】
- 塩唐揚げに根菜を合わせたお惣菜です。甘酸っぱい餡がごちそう感を演出してくれますよ。
- この料理を作った直前の献立はカレーライス→ラーメン→うどん→かつ丼でした。さすがに普通のおかずが食べたくなってこれを作った次第。なんか落ち着く。
- 野菜類は他にも蓮根やさやいんげんなどがおすすめです。冷蔵庫の中身と相談しながら、いろいろ加えてみてください。変わったところでは皮付きのじゃがいもなんかもありですよ。

