今から100年ちょっと前の1908年のこと。
東京大学の池田菊苗教授が昆布からL-グルタミン酸塩の抽出することに成功しました。

これが世界で初めて「旨味」の正体が発見された瞬間です。
それまでも料理人の間では出汁という概念が知られていて、砂糖、酢、塩などの調味料を加えて味を付けるのとは異なる旨味を料理に付加する技法がいろいろ編み出されていました。

その旨味の正体が化合物として解明されたことにより出汁を引かなくてもその化合物を主軸とした調味料を使えば誰でも簡単に旨味のある料理が作れるようになったわけです。
その調味料は早々に工業生産できるように研究がすすめられ「味の素」という製品として発売されました。
けど旨味調味料である味の素がそれから歩む歴史は平たんではなく大正時代には「あれは蛇から作られているんだぜ」なんてまことしやかなデマが流布されたりもしたみたい。

2006年時点で味の素社が1年間で生産するアミノ酸の量は100万トン超え──製造を工業化するということは生産量はそんなスケールになるのです。
大正時代の生産量はわかりませんがその原料となる蛇が10匹、20匹で済むはずもなし。
そんな大量の蛇を毎年毎年どこで飼育してるねん──とちょっと真面目にツッコみたくなる話ですw
その後、「科学」や「化学」という単語は輝かしい未来の象徴としてもてはやされた時代もあれば公害問題がクローズアップされてネガティブに扱われた時代もありました。

ちなみに化学調味料と味の素は同義に使われることもありますが正確には前者は一般名詞、後者は商品名です。
更にちなみに化学調味料という言葉は特定企業の商品名を放送したらダメだったNHKが作り出した言葉だそうです。
その後、1980年代に美味しんぼが登場して化学調味料を徹底的に叩きました。

ただ読み返してみるとけっこう感情論で叩いていて科学的なアプローチがなされているとは言い難い。
化学調味料を使えばLグルタミン酸塩をはじめとする旨味成分を料理に付加できること、それによって旨味の強い料理が作れること自体は歴然たる事実です。
但し、これは化学調味料に限ったことではないのですが摂り過ぎに注意する必要があります。
過剰摂取すれば体にさまざまな弊害が出て来る可能性はありますし、何より旨味が強い料理に仕上がると食べ過ぎて太っちゃうなんて弊害も危惧されます。

要は化学調味料は賢く使えば料理を美味しくする魔法の調味料ではあると僕は思うのです。
ただ、化学調味料がなくても旨味を引きだす方法をいろいろ知っているとそれはそれで強い武器になります。
ということで最近覚えたキノコから出汁を引くコツを実践すべくこんな一杯を作ってみました。
【材料】(1人分)
-調理時間:12分-
- 舞茸:半株
- 昆布出汁:250g(250ml)
- 塩:2g(小匙1/3)
- 濃口醤油:3g(小匙1/2)
- 酒:10g(小匙2)
【作り方】
- 舞茸は手で裂いて小房に分けます。これをジップロックに入れるかバットなどに並べて冷凍庫に入れ凍らせます。
- 1.と残りのの材料を小鍋に合わせます。
- 1.は凍ったまま入れるのがコツです。
- 1.の小鍋を蓋をせずに中火にかけます。なべ底に小さな気泡が立ち始めたら火をごく弱火にしてゆっくり加熱し軽く煮立たせればできあがり。
【一口メモ】
- 調理手順を読んで「え、煮こんだりしないの?」と思われた方もいるかと思いますがこの手順で十分火が通ります。そしてしっかりとした茸の旨味が感じられる出汁が挽けています。
- 舞茸に限らずキノコ類は旨味成分の塊。言ってしまえば天然の化学調味料みたいなものです(って、矛盾する表現か?)。舞茸の旨味を挽きだすコツは2つ。ひとつは「冷凍して細胞膜を破壊し旨味成分が溶け出しやすいようにしておくこと」もうひとつは「旨味成分にかかわる酵素の特性を活かすこと」です。
- 舞茸は旨味成分を破壊する酵素と旨味成分を作り出す酵素を持っています。破壊する酵素はおよそ60度の水温で活性を失って働かなくなります。これが「なべ底に小さな気泡が立ち始め」るタイミング。ここまで一気に温度を上げてここから70度くらいまでゆっくりゆっくり温度を上げて、酵素を作り出す酵素の独壇場にすることで旨味を最大限に引き出します。60度までは中火で一気に温度を上げているのはシャキシャキした食感を残すためです。煮すぎるとくたくたになるので。
- なので舞茸に限りませんが茸類は沸騰した湯に投入するのではなく水から煮ましょう。
- 同じ理由でキノコ類をレンチンするのも旨味の観点からはおススメしません。火力が超強いので。

