時代小説『みをつくし料理帖』に出てくる料理です。
季節は夏。うっかりキュウリを沸かした湯に放り込んでしまったことから生まれた料理です。
茹でたキュウリなど客に出すわけにいかず、まかないにでもしましょうと漬け汁に放り込んでおいたらあら不思議、味がよく滲みて美味しくなってましたという流れ。
ま、料理の歴史は失敗の歴史。厨房は実験室みたいなものですから似たようなことはいくらもあります。
その後、店に出されたこの料理は好評だったのですが、なぜかお侍の客足がぱたりと途切れます。
小松原様という浪人風の馴染み客が種明かしをしてくれるのですが、胡瓜の切り口が三つ葉葵(水戸のご老公でおなじみ徳川家の家紋)に似ている。恐れ多いと考えたのだろうとのこと。
ホント、つまらないことに拘りますよね。
茹でる前にキュウリを叩いてゆがめて、どう見ても三つ葉葵には見えないようにして主人公の澪は苦境を凌ぎます。
こうすると味染みも良くなるので、恐らくは作者がこの工程を自然に挿入するために考えたエピソードではないかと僕は睨んでいます。
とまれ、物語の中ではそれからお侍の客が戻ってきて、ただどこかこっそりと忍んでやって来る風情だったのでこの名前が付けられました。
夏真っ盛りに(江戸時代にはないけれど)キンキンに冷やして食べるとひとしおに旨い一品ですよ。
【材料】(2人分)
-調理時間:1時間-
- きゅうり:1本
[漬け汁パート]
- だし汁:20g(20cc)
- ごま油:ひと垂らし
- 酢:15g(大匙1)
- 濃口醤油:18g(大匙1)
- 砂糖:2g
- 鷹の爪:半本
【作り方】
- キュウリに軽く塩を振って板擦りにします。鷹の爪は料理バサミで小口切りにします。[漬け汁パート]は小鉢に合わせてよく混ぜておきます。
- きゅうりをすりこぎで叩いてひしゃげさせます。 ※力を入れすぎるとぶっつぶれますのでご注意を。
- 小鍋に湯を沸かしてキュウリを1分茹でます。これを氷水に放って急冷します。
- 3.の水気を切って[漬け汁パート]に入れます。冷蔵庫で1時間以上漬け込んだらできあがり。
【一口メモ】
- ほどよく辛くて良い塩梅。すっと汗がひく一品です。
- 味染みを更に良くしたいと思う方は2~3mm感覚で包丁目を2/3ほど入れて(胡瓜の両側に菜箸を置いてストッパー代わりにすると簡単です)蛇腹にすると良い感じです。
- 茹でたり蒸したりした茄子でも楽しめると思います。