人間の歴史の中で「食糧を保存する」というのは飢餓との戦いに勝つための必要不可欠な命題でした。
ただ倉庫を建ててそこにしまっておけば良いのなら話は簡単なのですがそのままでは食糧は早晩腐ってしまうということを人間は経験から知っていました。
なので食糧保存の歴史は腐敗との戦いの歴史とほぼ同義です。
科学的な理解が未開だった時代、その戦術はほぼ経験則とトライ&エラーの繰り返しから得られるものでした。
例えば……温度が低いところでは食糧の腐敗は遅滞するということを知って人間は冷暗所や氷室に食糧をしまうことを覚えました。
これがやがて冷蔵、冷凍の技術発展につながっていきます。
塩や酢に漬けると食糧の腐敗は遅滞するということを知って様々な保存食が考案されました。
ただ長持ちするだけでなく梅干しやピクルスなど元々の食材では得られなかった味を楽しむことも人間は覚えました。
逆の発想で食糧を生きたまま保存する方法も発見されました。
ネギや大葉などは実は店で売られている段階でまだ生きています。
なので水に差して活けておけば光合成も呼吸もするし、成長すらしながら腐敗を免れるのです。
つくづく人間って強かだなぁと思うのはその「腐敗」すら楽しむことを覚えました。
実は発酵と腐敗は科学的には同義の現象です。
それが人間にとって都合が良い現象──つまり美味しい、お腹を壊さない現象を発酵と呼んでいるに過ぎません。
チーズや納豆で起きている現象は腐敗(腐る)にほかならないのです。
食糧保存の歴史において科学はいつだって後付でした。
まず経験則から腐敗を遅らせる技法が考案され、なぜそうなるのかを後から説明するのが科学でした。
だったら科学は学者たちの自己満足に過ぎない役立たずだったかというとそうではありません。
腐敗を遅らせる仕組みを論理的に説明できるようになって初めてそのメカニズムを応用することができるようになったのです。
その応用によってこそ初めて人間は経験に頼らず思考することで腐敗に打ち勝つ方法を考案できるようになったのでした──スープに酸性のレモン果汁を含み、トッピングに長期保存に向くようコンフィした鶏のチャーシュー、塩漬けの梅干し、水に活けてまだ生きたままの大葉を使ったこの一杯のラーメンにはわりと壮大な食糧保存の歴史の成果が詰まっているんだなぁなんてことを食べ終わってから感じちゃいました。
【材料】(1人分)
-調理時間:2時間3分-
- 袋入りラーメン(塩味):1袋
- 鶏むね肉:50g
- 梅干し:1粒
- 大葉:1枚
- 黒ごま:少々
[ラーメンの茹で汁パート]
- レモン果汁:10g(小匙2)
- 水:パッケージに記載の量-10g
[鶏の下茹でパート]
- 水:200g
- 塩:6g
【作り方】
- ジップロックに鶏むね肉と[鶏の下茹でパート]を入れて空気を抜いて封をします。これを炊飯器に入れてひたひたのお湯を注ぎ保温モードで2時間放置します。終わったら鶏肉を氷水に5分浸けて塩抜きをします。
- [ラーメンの茹で汁パート]を鍋に沸かして普通にラーメンを作ります。待っている間に梅干しは種から外して叩きます。大葉は細切りにします。鶏チャーシューはスライスしておきます。
- 丼にラーメンを入れ鶏チャーシュー、梅干し、大葉をトッピングし黒ごまを散らせばできあがり。
【一口メモ】
- もはや袋入りラーメンとは異次元のちゃんとした料理だなぁとしみじみ思います。レモン果汁、梅干し、大葉、それぞれが持つ清涼感が協奏し合って夏らしいラーメンを演出してくれています。
- 暑い日には冷やしラーメンにするのもオススメ。ラーメンを別茹でにして冷水で〆、スープには氷を投入して急冷。キンキンに冷えたラーメンを汗かきながら戴きましょう。
- 味は断然塩がオススメですが醤油も結構イケます。あとレモン果汁はゆず果汁や黒酢を使うと風味が変わってまた楽しいですよ。