僕が生まれるちょっと前、1962年(昭和37年)の年末から放送されているご長寿料理番組があります。
その名は「キューピー3分クッキング」。
よく続いているなぁ。
この番組に関してもうたいがいに関して言い尽くされている気がしますが「けっして3分でできるお料理を紹介する番組ではありません」ということ。
単に放送時間枠が5分、本番の尺が正味3分だったことからこの名前が付いたのだとか。
但し今では放送時間は10分に伸びているようですね。
この番組に限りませんが料理番組でよく見かける演出でこんなのがあります。
「はい、こんな風に生地を捏ねてこのまま1時間休ませます……と言いたいところですが今日はこちらに1時間休ませたものを用意しました」
と調理台の上の別のボウルの中身をカメラに映したりします。
あの演出を見る度に良いなぁ。
楽ちんだな、と益体もないことを考えちゃうんですよね。
うちのキッチンでも1時間後の生地が用意されていたら良いのになぁ──なんて。
どんな凄腕の料理人でも超えることができない時間の壁というのがあります。
パン生地は1分では膨らみませんし、牛すじを10分煮込んでも柔らかくなりません。
梅酒だって一晩漬けたら美味しい梅酒の完成……とはならないのです。
どれも1時間、2~3日、数カ月待つしかないのです。
美味しんぼなんかではその長時間待つ工程を『手間』と称して些か過剰に賛美していましたが実際やってみればそれは『手間』ではなく「暇(ひま)』でひたすら退屈なだけなことが多いです。
だからできればそんな工程はすっ飛ばしてさっさと完成品を手に入れたいと考えることは何も非難されるようなことではないと思うんですよね。
『暇』をすっ飛ばす一番ありきたいな方法はお料理番組方式ですね。
「はい、こちらにスーパーで買ってきた梅酒を用意しました。今夜はこれで乾杯しましょう」
てな具合に完成品を買って来れば良ろしい。
お金で時間を買うわけです。
次に考えられるのは時短。
便利な道具を使って調理時間を短くする方法です。
電子レンジを使った時短料理の本がけっこう売れているのを見ると「みんな同じことを考えてるんだな」となんか安心しちゃいます。
圧力鍋も画期的な調理器具で何時間もコトコト煮ないといけなかった料理がたった10~20分くらいで仕上がるようになりました。
そして──調理工程の見直しも有効な手段です。
全く違った手順でパパっと作ったのに似た味に仕上がればそれはそれで凄い工夫であって間違っても手抜きの誹りを受けるものではないと思うのです。
例えば炊き込みご飯が食べたければ材料の漬け込みから米の炊きあがりまでどうしたって1時間はかかります。
けれどこのレシピのように調味料に漬け込んだ具材を手早く煮て出来合いのご飯に混ぜ込む方式にすれば半分の時間でかなり近い味の料理ができちゃうのです。
「お米と具材をしっかり混ぜたらこのまま1時間かけて炊き上げます……と言いたいところですが今日はこちらに炊き上がったご飯と具を用意しました。
これをちゃちゃっと混ぜれば炊き込みご飯の完成です」案外、お料理番組のあの演出は工夫次第で夢物語ではなくなるのかもしれません。
【材料】(1人分)
-調理時間:42分-
- ご飯:1膳分
- 鶏もも肉:50g
- 生姜スライス:2枚
- 刻み海苔:適宜
[漬け込みパート]
- 濃口醤油:15g(小匙2強)
- 味醂:9g(大匙1/2)
- 酒:7.5g(大匙1/2)
- 砂糖:6g(小匙2)
【作り方】
- 鶏肉を皮付きのまま2cm角の角切りにします。これと[漬け込みパート]を合わせて冷蔵庫に入れ30分漬け込みます。待っている間に生姜は千切りにします。
- 冷たいフライパンに1.を[漬け込みパート]ごと入れて重ならないように広げます。これをごく弱火にかけて5分焼きます。火を弱めの中火にして絡めながら水気がほぼなくなるまで炒めます。
- ボウルにご飯と2.を合わせてよく混ぜます。これを丼または茶碗に盛り付け刻み海苔をトッピングすればできあがり。
【一口メモ】
- 生姜の風味が利いていてさっぱりした味わいの混ぜご飯に仕上がりました。季節を問わない料理ですが夏の暑い盛りには特にごちそうになりそうですね。
- 炊き込みご飯に近いテイストの料理ですが炊き込みご飯はお釜の中身がなくなったら食べきり。それに対してこれは白ご飯さえあれば具材を追い足すことでいくらでもお代わりできるメリットがあります。食べ盛りの子供たちがいるご家庭では重宝するかも。
- この料理はみをつくし料理帖という時代小説に出て来る料理をアレンジしたものでオリジナルは鶏肉の代わりに戻りガツオを使っていました。戻りガツオは初ガツオより脂が乗っているので同系統の鶏もも肉をチョイスしました。同じ発想で鰤(ぶり)や豚バラ肉を使っても美味しくできると思います。