テレビの影響力は下がってきている。

テレビを置かない家も少なくない──なんて言われるようになって久しいですが、それでもまだまだ根強い力を持っているなぁと感じる出来事として2018年頃に、“鯖缶ブーム”という現象が起きました。
テレビで鯖缶を使った料理のレシピが紹介されたらあっという間に店頭から鯖缶が消えた。
そして……びっくりするくらい値上がりした。
元々、鯖缶料理が紹介されたのは1缶100円くらいで売っているチープな缶詰なのに、ちゃんとしたおかずがいろいろ作れて家計に優しいよ、というコンセプトだったはずなのです。

けれど、その番組を観て「俺もやってみよう」とスーパーに出かけたら……
ぜんぜん家計に優しくない値段になっているという矛盾!
けど、高騰を嘆いたのはそんな"鯖缶初心者"よりも、テレビで紹介される前から鯖缶を愛用していた人たちでしょうね。
「余計なことをしやがって、鯖缶に注目が集まっちまったじゃないか」
と、その番組を恨めしく思った人もいそうです。

それを指して、心の狭いやつ、という人もいるかもしれませんが、僕はそうは思いません。
無限に存在するリソースなんてものはこの世にはないのです。
誰かが食べれば他の誰かが食べられなくなるのは必定。
「俺の分を取るんじゃねぇ」
と思ってしまうのは人情でしょう。

同じ缶詰ならツナ缶の方が汎用性もあるし、鯖缶以上のブームが起きてもおかしくない気がします。
ツナ缶も値段でいえば4連パックで300円前後、1個あたり7、80円くらいの勘定ですから大差ありません。
では何が鯖缶と違ったかというと"目新しさ"だったんじゃないでしょうか。

例えば、テレビで
「今日はツナ缶を使っておしゃれなパスタを作ってみたいと思います」
「ええっ、ツナ缶でパスタソースなんか作れるんですか?」
なんてやり取りをしたら、何を今更と視聴者は白けてしまいます。
けれど、この会話の"ツナ缶"を"鯖缶”に置き換えてみてください。
俄然、視聴者は興味津々で思わずテレビの方を観るでしょう。

長々と口舌を垂れてしまいましたが、何が言いたかったかというと──「本当はこの"もずく汁"のレシピも紹介したくない」ということが言いたかったのです。
もずく酢は3連パック100円くらいで、どこのスーパーの棚でも見かけるありふれた商品です。
ありふれているだけじゃなくて地味で、あまり人気のある商品じゃないようです。
その証拠にいつ行ってもけっこう山積みで棚に並んでいて間違っても売り切れ御免になっているところなど見たことはありませんから。
けどね、このもずく酢は、ツナ缶にも引けを取らないスーパーアイテムなんですよ。
生野菜と合わせれば、ドレッシング要らずのサラダにできます。

そのサラダに茹でた肉を合わせればさっぱりとしたおかずになります。
焼いたり揚げたりした魚にかければ一瞬で南蛮漬け風のお惣菜に大変身。
竹輪やカニカマと合わせて冷製パスタにかければ和風のパスタソースにだってなるのです。
そして、そして……。
このレシピのようにすまし汁に投入すれば暑い夏にぴったりの酸味の効いたスープにだって仕立てられるのです。

「紹介したくないなら、しなけりゃ良いじゃん」
なんて言わないでね。
こんな美味しいもの、僕だけで楽しむのはもったいない。
世界中の食いしん坊な人たちと共有したいじゃないですか。
なので、先に謝っておきます。
世界中のもずく酢ファンのみなさん。
このレシピをきっかけにスーパーからもずく酢が消えたらごめんなさい。

……、って、まあそうはならないと思いますが(笑)
【材料】(1人分)
-調理時間:3分-
- 鰹出汁:150g(カップ3/4)
- (市販の)もずく酢カップ:1個
- おろし生姜:ひとかけ分
[調味料パート]
- 塩:1g(小さじ1/6)
- 濃口醤油:9g(大さじ1/2)
- 味醂:12g(小さじ2)
[薬味パート]
- 刻みねぎ:少々
- 炒りごま:少々
【作り方】
- かつお出汁と[調味料パート]を小鍋に合わせて中火にかけます。煮立ち始めたらもずくとおろし生姜を加えます。 ※もずくは漬け込んでいるお酢ごと加えましょう。
- 再度、煮立ち始めたら火を止めて器に移し、[薬味パート]を散らせばできあがり。
【一口メモ】
- 酸味が嬉しい夏のごちそうスープです。風味の要はおろし生姜、味がキリッと引き締まりますよ。
- 煮すぎると風味が飛ぶので、煮立ち始めたらすぐに火を止めましょう。
- 熱々を戴いても良いのですが冷蔵庫で冷やしておいて冷製スープとして楽しむのもありです。鰹出汁の素を使うのであれば火にかけず、常温で他の材料と合わせてそのまま冷蔵庫で冷やしてもOKですよ。
- このレシピは具なしのプレーンバージョンですが、きゅうり、オクラ、トマトなどを加えて賑やかなスープにするとさらに楽しくなりますよ。

