人には生理的欲求というのがあります。
生物としての基本的な欲求を指す言葉で例えば「呼吸をしたい」とか「水を飲みたい」なんてのもこれに含まれます。
その中で一番有名なのは三大欲求と呼ばれるもので「食欲・性欲・睡眠欲」ですね。
生理的欲求は最も基本的で低次な欲求と言われますがそれゆえにその欲求には誰も抗えない類のものでもあります。
小説やドラマ、アニメなどの世界ではこの抗えない欲求を逆手に取って観客を惹きつけるという演出が行われます。
古今東西あらゆる物語に恋愛要素(=性欲)が盛り込まれるのは一番手っ取り早く観客の心をわしづかみにできるからでしょう。
映画などの映像作品が登場するまで物語世界で扱われる三大欲求は恋愛が主流でした。
「睡眠欲」も抗えない欲求ではあるのですがまさか観劇中にぐっすり寝てもらおう──なんてことを狙った演出は……
NGですよねw
食欲をそそる演出というのは小説世界では度々扱われてきましたが舞台劇ではちょっと不向きでした。
舞台の上で料理を出されても観客からは皿の中が見えませんからイマイチ訴求力が弱かったのだと思います。
食欲に訴求する作品が台頭してきた背景には映像作品の技術向上がありました。
画面がモノクロからカラーになる。
サイレントからトーキーに移行して美味しそうな音を立てる。
皿の中の料理にカメラがパンしてアップで映し出される。
それを食べる役者たちの表情までもが大写しになって食欲をそそる。
「これは観客の心を掴める」と考えた制作者がいたのでしょう。
一昔前まではドラマの定番テーマといえば恋愛一強だったのが近年は料理をテーマにしたものが一気に増えてきました。
これらのドラマの最重要アイテムはもちろん『料理』。
誰もが「美味しそう」と言って身を乗り出すような皿がチョイスされます。
中には見たことも聞いたこともない美食の限りを尽くした料理を武器とする作品もありますが、他方で誰もが知っている、思い入れのある、郷愁や母の愛を感じさせるありふれた料理を武器にする作品も多数あります。
豚汁などはさしずめ後者のド定番料理のひとつと言えるでしょう。
過日、夕飯の汁物に件(くだん)の豚汁を作ろうと企んだのですがふと魔が差しました。
この料理、味噌味ではなく塩で味付けしたらどんな感じだろう。
思い立ったが吉日。
さっそく試してみることにしたのです。
【材料】(1人分)
-調理時間:15分-
- 豚バラ肉:100g
- 大根:1cmの輪切り
- 人参:1cmの輪切り
- 玉ねぎ:1/4個
- 茸類(今回はひらたけ):適宜
- バター:6g(大匙1/2)
- 粗挽きブラックペッパー:少々
[スープパート]
- 昆布出汁:180g(180ml)
- 塩:1g(小匙1/6)
- 濃口醤油:6g(小匙1)
- 酒:5g(小匙1)
【作り方】
- 根菜を下茹でするお湯(分量外)を沸かします。大根はかつら剥きにして1cm厚のいちょう切りにします。人参はその5mm厚のいちょう切りにします。湯が沸いたら大根、人参を投入し中火で5分下茹でします。
- 工程1.で根菜を茹で始めたら豚肉は食べやすい大きさに切ります。玉ねぎは細切りにします。茸類は食べやすい大きさに切ります。小鍋にバターを入れて中火にかけます。バターが融け始めたら豚肉、玉ねぎ、きのこ類を入れて肉の色が変わるまで炒めます。茹で上がった1.を加えて更に1分炒めます。
- 2.に[スープパート]を加えてひと煮立ちさせます。アクを取ったら蓋をして中火で5分煮込めばできあがり。器に盛り付け粗挽きブラックペッパーを振って頂きます。
【一口メモ】
- 豚汁というよりは和風のポトフといった感じのスープになりました。仕上げに振った粗挽きブラックペッパーも洋風の演出ですね。けど昆布出汁がしっかり利いて美味です。
- 根菜の下茹ではちょっとめんどうに感じるかもですが味の沁み方が全然違ってきますので必ずやってくださいな。
- レシピに書いた具材は一例です。他にもじゃがいも、ごぼう、薄揚げ、こんにゃくなどの手持ちがあればプラスするとにぎやかなスープになって楽しいですよ。