7日に一度、「どようのひ」にだけ異世界とつながる不思議な洋食屋《洋食のねこや》を舞台にしたファンタジー小説「異世界食堂」にこんなエピソードがありました。
店でウエートレスとして働く魔族の娘アレッタに異世界側での職が見つかった時のこと。
ねこやのマスターが就職祝いにとクッキーの詰め合わせを贈ります。
「やっぱりお菓子って果物よりずっと美味しい!」
異世界──日本の珍しいお菓子を彼女はとても大事にしていたのですが……
彼女の新しい仕事は住み込みのメイド。
ある日、主人の留守中に客人が訪れてアレッタはお茶を出します。
そのお茶に添えて彼女は残り少なくなっていたクッキーを全部出したのでした。
エピソードの最後にはアレッタの優しさが報われてほっこりする結びになっていて僕的にはいっとう好きなお話だったりします。
とっておきの美味しいものを思い切りよく客人に振舞うというのは時代も洋の東西も問わず飛び切りのもてなしの心だと思います。
江戸時代から続く山形県の名物料理「鱒のあんかけ」もそんな思いが込められた料理だったらしい。
あんかけは江戸時代に上方(関西地方)で生まれた調理法。
北前船という商船によってそれが山形にも伝わりました。
春に獲れる鱒を蒸してあんかけにしたこの名物料理はハレの日のごちそうでした。
葛も砂糖も貴重品だった時代にそれを思い切りよく使ったあんかけ料理で客人をもてなす。
きっとそれはとっておきのご馳走だったのでしょう。
クッキーの最後の数枚がどうなったか──ねこやのマスターにその経緯が伝わったとしたら気の良い彼のことですからクッキーをもう1箱、アレッタにプレゼントしたんじゃないかな。
なんて考えながら今ではありふれた料理になったあんかけうどんをすすりました。
今が江戸時代だったなら、この1杯も特別なご馳走だったんだろうなぁ。
【材料】(1人分)
-調理時間:12分-
- うどん(生めん、乾麺どちらでもOK):1玉または1束
[具材パート]
- むきエビ:50g
- 茸類(今回は舞茸):1/4房
- ししとう:3~4本
- 人参:スライス1枚
[餡パート]
- 昆布出汁:100g(カップ1/2)
- 蕎麦の本返しまたはめんつゆ:小匙1
- 水溶き片栗粉:3g分
【作り方】
- うどんを茹でるお湯(分量外)を沸かしてうどんを規定時間茹でます。茹で終わったら流水で〆て水を切り、深皿に盛ります。
- 1.をやっている間に茸類は小房に分けます。ししとうはヘタを取ります。人参は細切りにします。
- 小鍋にむきエビ[具材パート]と[餡パート]の水溶き片栗粉以外を合わせて中火にかけます(蓋はしません)。鍋底から小さな気泡が上がりだしたら弱火にしてゆっくり時間をかけて温度を上げていき軽く煮立たせます。 ※鍋底から小さな気泡が立つくらいで約70度。ここから時間をかけて火を通すことで茸から出汁を挽きだします。
- 3.を再度中火にして煮立たせ水溶き片栗粉を加えてとろみを付けます。これを1.のうどんにたっぷりかければできあがり。
【一口メモ】
- オーソドックスで素朴な味ですが、その分飽きが来ません。いうことなしのほっこりしたご馳走です。
- この餡は茸から旨味を挽きだして出汁にしています。工程3.の手順を守って水温70度くらいからゆっくり温度を上げて最大限に出汁を挽いてください。
- 具材は冷蔵庫のあり合わせでOK。海老の代わりにささみや胸肉などの鶏肉を使っても美味しいですよ。