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和麺

海幸山幸の塩ひやしうどん

ダシが利いていない──というのは塩味や酸味が足りなくて味が薄いという意味ではないということを僕らは経験上知っています。

和食には昆布や鰹節を使ってダシを挽く技法が古くから確立されていてそれによってもたらされる旨さは塩辛さ、甘味、酸味とは別物だと理解しているからです。

けど、じゃあ具体的にダシが利いている/利いていないというのはどういう状態かということを科学的に説明できるようになったのは実は20世紀になってからのことです。

20世紀初頭に東大で昆布からグルタミン酸という「旨味成分」が発見されて、実は昆布や鰹節を煮てダシを利かせるというのはそれらが持つ旨味成分を水に抽出する作業だということが解明されました。

ただこの説はヨーロッパの学会では懐疑的で料理を「旨い」と感じるのは塩気や酸味が良い感じのバランスを取っている状態を指しているだけじゃないの?

という意見が強かったみたい。

それは日本人の方が鋭い味覚を持っていたとかそういう話ではなく水の違いによるものだったみたいです。

日本の水は軟水で旨味成分の抽出に適しているのに対してヨーロッパの水は硬水でダシを挽きにくい。

結果、和食のような旨味成分を抽出する技法が生まれなかったという歴史によるところが大きかったようです。

じゃあ、洋食にはダシの文化がないのかというとそんなことはなくて食材自体から旨味成分をもらって味を強化する技法が発達しています。

たとえば肉料理では肉自体が旨味をたっぷり含んでいるので肉汁を使ってグレイビーソースを作るなんて技法が編み出されました。

つまり水自体がダシを挽くのに向かないので料理に旨味を含んだソースをかけるという発想に至ったわけです。

あるいはトマトのように酸味の強い食材を合わせて旨味を補強するという技法も生まれました。

後付けですけど、実はトマトには旨味成分のひとつグルタミン酸がたっぷり含まれていることが今ではわかっています。

経験から「トマトを一緒に煮こむと旨い」ということを知っていて無意識のうちにグルタミン酸を料理に加えていたというわけです。

更にトマトに限りませんが多くの野菜や茸は干して乾物にすると旨味成分の量が爆上がりします。

これも最初は食材の長期保存を目的として乾物を作っていたら「なんかこっちの方が美味しい」という経験が先にあって成分を分析してみると旨味成分が増えていることがわかったという流れだったようです。

自分が持つ経験に対して「なぜ」という疑問を持ち、その原因を追究していくというのはなんとも科学っぽいですね。

過日、「今日のランチはひやしうどんが食べたいな」と思って朝から昆布出汁を挽いておりました(冷蔵庫で冷やすヒマがいるので朝イチでかかったのです)。

けど、なんだか興が乗ってしまって「これに乾燥した野菜のダシを加えたらもっと美味しくなるのでは」なんて思ってしまったのです。

ということで低温のオーブンで即席のドライ野菜を作りましてこんな一杯に仕立ててみました。

なんかちょっと贅沢な気分♪

【材料】(1人分) 

調理時間:80分-

  • うどん:1玉(または1束)
  • 乾燥わかめ:ひとつまみ
  • ありあわせの野菜、茸類:今回はミニトマト、ししとう、ひらたけ
  • (お好みで)天かす:適宜
  • 生姜:スライス1枚

[つゆパート]

  • 昆布出汁:250ml(250ml)
  • 塩:1g(小匙1/6)
  • 干し貝柱スープの素:3g
  • レモン果汁:5g(小匙1)
  • タイム:少々

【作り方】

  1. オーブンを100度に予熱します。天板にクッキングシートを敷いてヘタを取って半分に切ったミニトマト、ヘタを取ったししとう、小房に分けたひらたけを重ならないように並べ軽く塩(分量外)を振ります。予熱が完了したら天板を下段に入れて1時間焼きます。 ※100度の低温で長時間焼くことで野菜類は天日干ししたのと似た状態になります。
  2. 1.をやっている間に小鍋に水250mlを入れこれにキッチンバサミでひだを付けた出汁昆布を浸けます。1.の工程終わり間際に小鍋を中火にかけて沸騰寸前に抜けば[つゆパート]の昆布出汁の感性。これに[つゆパート]の残りの材料を加えます。
  3. 2.に1.の野菜類を浸けてうどんを作り始めるまで冷蔵庫に置いておきます。 ※冷蔵庫の低温で浸け込むことで乾物臭さが抜けたダシが挽けます。できればここまでの作業は朝イチでやっておきましょう。
  4. 乾燥わかめを水で戻します。生姜は針生姜にしておきます。うどんを規定時間通りに茹でて流水で〆、更に氷水に浸けてしっかり冷やします。 ※冷やしうどんの場合、茹で時間が短いと麺に芯が残ってしまいますのでパッケージの記載を守って時間いっぱいまで茹でましょう。
  5. 4.のうどんを水切りして丼に移し、3.を注ぎます。これにわかめ、(お好みで)天かす、針生姜をトッピングすればできあがり。

【一口メモ】

  • とにかくつゆが旨いです。昆布、乾燥野菜、乾燥茸、干し貝柱のエキスなど旨味成分のオンパレード。なんとも典雅なランチを楽しめました。
  • ダシを挽いたり乾燥野菜を作ったりするのにヒマはかかりますがほぼ放置なので手間は大したことはありません。なんか今日は冷やしうどんが食べたいな──という気分の日には朝一番で仕込みだけしておきましょう。
  • 3.の工程の時間はこのレシピに含めていませんが最低でも1時間、できれば半日くらい浸け込んでください。
  • ちなみに乾燥野菜自体も甘みが増してめっちゃ旨いですよ。
  • トッピングはオーソドックスなものを揃えましたがサラダに使うような野菜類、海老や貝などを使うと更にリッチな一杯になります。

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