"うっかり八兵衛は黄門様一行に必要な存在なのか? 実は要らない子なんじゃないのか?"
なんて考えたことがある人は案外多いんじゃないでしょうか。
といっても、「うっかり八兵衛って誰?」なんて方もイマドキは増えている気がするのでその説明から始めないといけないかもしれませんね。
昭和の時代に『水戸黄門』という国民的時代劇がありました。
筋立ては、権中納言・水戸光圀公が諸国を漫遊して、先々で悪代官や悪徳商人を懲らしめるという安心・安定のあるワンパターンストーリー。
それがウケて、50年を超える長寿ドラマになりました。
うっかり八兵衛はその光圀公に同行する一人です。
旅の仲間のキャラクター設定を西遊記になぞらえるとわかりやすいかもしれません。
リーダー・三蔵法師にあたるのは水戸光圀公、孫悟空に相当するのが護衛役の助さん・格さん、沙悟浄に相当する参謀ポジションが風車の弥七やかげろうお銀。
そして、うっかり八兵衛のポジションはというと──残る猪八戒です。
食い意地が張っていて、おっちょこちょい。
やることなすことどこか抜けている“うっかりキャラ”でした。
リアリティを追求するなら、八兵衛は黄門様一行にとって“要らない子”です。
他の仲間たちは武士や忍者として鍛錬されているのに、彼は足が遅くて旅の足を引っ張る。
大飯喰らいで路銀に響く。
立ち回りでは全く戦力にならない。
まさに良いところなしの無駄飯ぐらいです。
ところが、作劇的には非常に重要な役割を担っています。
劇や映画では、緊迫した場面の合間に笑いや軽妙なやり取りを挟むことで観客の緊張を和らげる「コメディリリーフ」という手法があります。
八兵衛はその典型です。
悪役退治のカタルシスを高めるため、物語前半はどうしても重くなりがち。
八兵衛のキャラクターはその重さを中和するために欠かせない存在なのです。
料理の世界にも、一見無駄に見えても、実はしっかり意味があることはたくさんあります。
- 寿司に添えられるわさびや生姜は、殺菌作用があり、生魚を安全に食べるための知恵。
- ざる蕎麦の“ざる”は単なる器ではなく、水気を切ってつゆが薄まらないようにする役目。
- お弁当に入っている葉蘭(はらん)も、本来は抗菌作用のある葉で、食材の保存に効果的だったのです(今ではビニール製も多いですが)。
そして、今日ご紹介する料理も一見奇をてらっているようで、実はちゃんと理由があります。
僕は以前から冷麺やひやしうどんなど冷たい麺料理にひとつ不満がありました。
それは食べ進めているうちにつゆがぬるくなること。
つゆの代わりに氷菓を使ったこの料理はその不満を解消してくれるものです。
そう──シャーベットなら、最後の一口までキンキンに冷たいまま食べられるのです!
【材料】(1人分)
-調理時間:60分-
- うどん:生麺1玉または乾麺1束
- 鶏むね肉:30g
- きゅうり:1/3本
- 青ネギ:適宜
- 卵黄:1個分
[棒棒鶏のタレパート]
- おろしにんにく:小さじ1/2
- おろし生姜:小さじ1/2
- 一味唐辛子:ひとふり
- すりごま:小さじ1/2
- 濃口醤油:6g(小さじ1)
- 酢:3g(小匙1/2強)
- 砂糖:ひとつまみ
- ラー油:数滴
[シャーベットパート]
- 卵白:1個分
- 水:120ml
- 出汁の素(かつお):小さじ1
- 蕎麦の返しまたは麺つゆ:大さじ1
- レモン果汁:15g(大さじ1)
- はちみつ:7g(小さじ1)
【作り方】
- [シャーベットパート]の卵白以外をボウルに合わせてよく混ぜます。これを冷凍庫に入れて凍り始めるまで冷やします。
- 1.と並行して鶏肉を茹でる湯(分量外)を沸かします。沸騰したら鶏肉を入れ、すぐに火を止めて10分放置。中心までしっかり火を通します。 ※鶏肉を観音開きにしておくと火が通りやすくなります。
- 鶏肉を取り出して粗熱を取り細かく裂きます。きゅうりは細切りにします。器に[棒棒鶏のタレパート]を合わせてよく混ぜます。これに鶏肉、きゅうりを加えて和えます。
- [シャーベットパート]の卵白に塩ひとつまみ(分量外)を加えて、泡立て器でしっかりとしたメレンゲ状に泡立てます。冷凍庫から1を取り出し、メレンゲを加えて混ぜ、再び冷凍庫へ。何度か取り出してかき混ぜながら、シャーベット状にします。
- 4.の工程終わりにうどんが仕上がるように頃合いを計ってうどんを茹でる湯(分量外)を沸かして始めます。うどんを袋の表記通りに茹でたあと、流水で締めてから氷水でしっかり冷やします。 ※うどんの茹で時間は袋麺の記載を守りましょう。茹で時間が短いと〆た際に芯が残ることがあります。
- うどんをざるに上げて水切りし、深皿に盛ります。4.のシャーベットをこんもりと盛り付けて真ん中をくぼませます。くぼみに卵黄を入れ、周囲に3.の棒棒鶏を散らせばできあがり。
【一口メモ】
- レモンのさっぱり風味にはちみつの優しい甘みが加わったうどんつゆは、真夏にぴったりの一杯です。暑くてアイスやかき氷くらいしか食べる気がしない! なんて日にぜひどうぞ。
- 凍りかけたつゆにメレンゲを混ぜ込むことで多くの空気を含ませてふんわりとしたシャーベット状に仕上げることができます。もちろん、うどんつゆではなく、果汁でやっても同じ効果が得られますのでシャーベット作りにも活かせられるテクニックですよ。
- つゆをレモンシャーベットにしたてるのは一見すると奇をてらっているように見えますがちゃんと理にかなった意味があります。冷やし麺の難点は食べ進めるうちにつゆがぬるくなること。けれどシャーベット状のつゆはキンキンに冷えていて最後の一口まで涼を満喫できるのです。
- 鶏肉を茹でた湯は良いダシが出ているので、好みの具材を加えて味を調え、付け合わせのスープにしてしまいましょう。主菜に合わせてスープも冷やして冷製にするのもありですが冷たい主菜との対比で熱々のスープに仕立てて対比を楽しむのもまた一興です。交互に食べるとその都度、口の中の温度がリセットされて食が進みます。