オススメ



厨房日誌

待ちわびる楽しみ

あの頃のイベント写真のこと

僕が小中学生だった昭和50年代の学校ではよくこんな光景が見かけられました。

運動会や文化祭、修学旅行などのイベントが終わって2週間くらい経った頃、廊下の壁の前に人だかりができている。

壁に貼り出されているのはそのイベントで撮影された写真。

みんな手に手に応募用の封筒などを持っていて欲しい写真に付けられた番号をメモしていきます。

メモが終わったら現像代を封筒に入れて提出。

更に1週間後くらいに申し込んだ写真が届くというシステムでした。なんともまどろっこしかったな。

その場で現像された写真が出てくるポラロイドカメラはちょっと憧れの機械だったかも。

なのでデジタルカメラの登場は驚異的なできごとでした。

紙に現像するのじゃなくてその場で画面に映った写真がすぐ見れるなんて!

やがて、画素数がどんどん上がって普通のカメラで撮った写真と遜色がなくなったり、スマホという電話機に入ったアプリで撮影ができるようになってデジカメを持ち歩くこともいらなくなって……気がつくとすごい世界に僕らは住んでいます。

ところが近頃、その真逆の機能を持ったアプリが流行っているらしい。

不便過ぎるカメラアプリの登場

その名はGudak Cam。一種のカメラアプリなのですがどんな仕様になっているかと言うと

  • 写真は24枚撮りきらないと見ることができない。
  • しかも撮りきってから現像に日にちがかかるので写真が見れるのは3日後。
  • 24枚撮りきったらフィルム交換が必要。
  • しかも次のフィルムを使い始めるまで1時間待たなければならない。

まさに昔のカメラを体現したようなアプリなのです。

不便極まりない気がするのですがどんな写真が撮れているのか楽しみにしながら待つ間のワクワク感が人気の秘密らしい。

で、待ちに待った3日後。

現像された写真に一喜一憂。

「あちゃ、逆光で顔が真っ黒じゃん」

「あれ、この構図けっこうエモいかも」

慣れてくるとフィルムは24枚しかないことを意識するのでシャッターを押す瞬間の緊張感も違ってくるとか。

「まだだ。まだまだ。もうちょい寄せてから……はい、そこ!」

長らく忘れていたシャッターチャンスなんて言葉を思い出しそうですね。

7日に1度しか開かない食堂

昭和の頃は待つことが当たり前の時代でした。

たとえば手紙を送れば届くのは数日後。

それが電話をかけるとその場で用件を伝えられる様になりました。

FAXを使うと送るはずだった手紙をすぐに相手に渡すことができるようになりました。

プログラムの修正パッチは磁気テープに入れて新幹線で運んでいたのですが電子メールを使えば一瞬で受け取ることができるようになりました(あ、年がバレそうなSEネタだ)。

あの頃は「待つこと」はただ煩わしくて1分でも1秒でも早く手に入れることは素晴らしいと考えていたのですが……

いつの間にか僕らは「待たずに済む」ことと引き換えに「待つ間のワクワク感」をなくしてしまったのかもしれません。

7日に1度だけ開く洋食屋のこと

2021年の秋アニメに「異世界食堂2」という作品が放送されました。

前作は2017年夏アニメでしたから4年ぶりの再登場。ファンとしては嬉しい限りです。

ざっくりどんな話かと言いますと、7日に1度の「土曜の日」にだけ店の扉が異世界につながる不思議な洋食屋「ねこや」が舞台。

繋がった異世界は中世ヨーロッパ風なのですがそこに住む騎士や冒険者、獣人や貴族、王族など多種多様な客たちが店を訪れて料理に舌鼓を打つ!──というだけの話です。

何か大きな事件が起きるわけでもないのですが僕らにとってはありふれた料理──ロースカツやハンバーグやカレーライスなどなど──を美味しそうに食べている彼らの姿を見るとこっちまで気持ちがほっこりするところが作品の魅力かな。

テイストはちょっと孤独のグルメに似ているかも。

そんな彼らにも異世界での日常があります。生活に疲れることもあれば人付き合いの難しさに悩むこともあります。

それでも7日待てば「ねこや」で好物が食べられる。それを考えれば今日も頑張れる。

待つ長さとしての「7日間」というのは実によく練れた設定じゃないかなと僕は思います。

これが「1日おき」だったらどうでしょう。あるいは「毎日9時から21時まで」だったらどうでしょう。

いくら好物が食べられる店とは言えワクワク感はてきめんに削がれます。

通おうと思えば毎日でも通えるとなると「ねこや」は途端にありきたりの飯屋になってしまうと思うのです。

土曜の日を指折り数えて待つ楽しみ。

うっかり土曜の日を過ごしてしまった時のまた7日待たねばならないと考えた時の絶望感。

そんな気持ちの浮き沈みが加味されて「ねこや」の料理はごちそうになるんだと思います。

待ちわびる楽しみ

ビデオが登場する前。

僕らは大好きな番組を見るために1週間待たなければなりませんでした。

うっかりその番組を見逃したら二度と見るチャンスはなくて落ち込みました。だから再放送されるなんてニュースが流れると欣喜雀躍したものです。

今振り返ると待つことは煩わしかったけれど待ちわびることは楽しみでもありました。

そしてその先で手に入る「何か」を特別なものにしてくれる魔力を持っていました。

決して強がりではなく「待つのもまた楽し」という気持ちは間違いなくあると思います。

クリスマスプレゼントはクリスマスの朝に枕元に置かれているから嬉しさもひとしおなわけで、「はい、一週間早いけどあげる」なんて言われながら今日手渡されてもあんまり嬉しくないじゃないですか^^

2022/12/18 Sat.

-厨房日誌

Copyright© 料理なんてだいきらいっ!! , 2022 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.